二年目の春

この日は土曜でホワイトデーの翌日ということもあり店は朝から学生達で賑わっていた。

横島とタマモは前日に続きバレンタインにチョコをくれた人にホワイトデーのお返しを渡していく。


「今日は暖かいわね。」

「そう? 昨日と変わらないけど。」

そんな店内では例によって楽器の練習に来ていた美砂達三人が休憩していたが、窓から差し込む春の日差しに思わず前日までの雪山と比べてしまうが近くに居た常連の少女に不思議そうな顔で突っ込まれてしまう。

美砂はそんな少女にとぼけて誤魔化すも、円は危ないことを口走ってしまった美砂をテーブルの下で小突いていた。

秘密を漏らしてはいけないという意識は当然あるが、前日との環境の違いについうっかりということらしい。


「はいよ、チョコバナナクレープ。」

一方この日の日替わりメニューはクレープであった。

今朝の仕入れで明日は山菜を使った食事になるのでこの日はデザートにしたようだ。

薄く焼いた生地で好みのトッピングを巻いて提供するが、基本的に店内で食べていく客がほとんどなので皿に盛り付けてお客に出している。

もっちりしつつもしっとりとした生地に巻かれたクレープは意外に食べごたえがあるのでおやつには最適だった。

相変わらず客層が女性に片寄ってるので甘いものはとにかく売れ行きがいい。

途中横島はいつものごとく女子中高生にあれこれとからかわれてもいたが。



「ではこの件はこれで決定とします。 続いて屋台に関してですが……。」

同じ日大学部のとある会議室では第二回麻帆良納涼祭の会議が行われていた。

参加メンバーは大学生がほとんどで、最年少は会議の進行役をしているあやかと夕映の二人である。


「別の会場を探して二つに分けるか? 屋台の申請が多すぎて公園には入りきらんぞ。 去年みたく周辺に勝手に屋台が並んでいくのもまずいだろう。」

納涼祭の計画は相変わらず大学生を中心に順調に進んでいるが、いろいろ問題も発生していた。

今年のコンセプトとして食のイベントにしようと地方のご到着グルメなど集めようと計画されているが、元々祭り好きな麻帆良の人々だけに現時点でも祭りの規模に対して参加希望数が集まり過ぎて問題になりつつある。

そもそも昨年は麻帆良湖畔公園で行った納涼祭だが、昨年ですら公園の周囲には勝手に屋台を出した人なんかも結構居て問題にもなった。

周辺住民も学園都市に住むだけに他に比べると理解はある方だが、それでも一部のマナーが悪い人が周辺の民家にゴミを捨てたり路上駐車したりと苦情もそれなりにあったのだ。

夏場なだけに衛生管理や保安面での問題もあるので無秩序に祭りが広がるのはダメだと注意もされている。

なお最終的な決定権は名目上とはいえ主催者である横島であり事実上はあやか達が握っていたが、この会議にはあやかに夕映やのどかなど横島の代理として参加するもほとんど大学生達の決定を承認するだけになっていた。

結局この日は祭りの規模の拡大と現状維持の双方を検討して予算や場所など具体的な計画を出すことで話は纏まっていた。


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