二年目の春

翌日はやはり高畑・刀子・刹那の三人以外はウィンタースポーツを楽しんでいた。

高畑達に関してはやはり修行したいとの要望だったので霊動シミュレーターに籠っている。

なおこの日は主に対人戦闘の経験を積みたいとのことから、シミュレーター内に仮想の街を同じく霊動シミュレーターのシステムで作りより実践的な環境で挑戦していた。

街での遭遇戦や建物内での戦闘に加え人質の奪還など様々な状況を想定しての訓練をするが、これらは基本的に戦闘タイプのハニワ兵が訓練用にと使用しているメニューを元にしている。


「刀子さん。 あの人はいったい……。」

そんな修行組だが休憩のタイミングを利用して、刹那は昨日から聞いていいのか分からないで迷っていた横島のことを遠慮がちに尋ねていた。

以前にも説明したが魔法使いの中には魔法球という箱庭のような私有空間を持つ者が居るというのは魔法関係者の間では有名な話であるが、実際に見たことある者などほとんど居ないし神鳴流であり西洋魔法との関わりが薄い刹那もそれは当然同じである。

幸いにして移動は横島の瞬間移動なのと他に可能性を思い付かないことで今のところ魔法球の中かとは思ってはいるが、高畑を圧倒した実力に多数のハニワ兵などいろいろ疑問が深まってもいるのだ。


「秘密を知る以上貴女にも秘密を守ってもらわなきゃならなくなるけどいい? 今のところ知ってるのは今日来てるメンバー以外だと学園長と西の長夫妻と後は雪広社長夫妻に会長と那波社長夫妻と会長だけよ。」

横島には何か自分には想像も出来ない秘密があるのは刹那でなくとも同じ環境に置かれると気付くし、ここまで来れば知りたいと思ってしまうのは人の性なのかもしれない。

そんな刹那に刀子は高畑と顔を見合わせて刹那に秘密を知る覚悟があるのか問わねばならなかった。

現状で異空間アジトの秘密まで知るのは、横島と親しい人物と近衛家・雪広家・那波家の御三家の人間のみなのだ。

刀子としては刹那を疑いたくはないが龍宮真名などに情報を漏らされても困るし、最近はあまり口にしてないが元々刹那の横島に対する評価が微妙なのを知る以上慎重を期すことは必要である。


「いえ私が知らない方がいいならば無理にとは……。 私は長やお嬢様の命に従うだけですから。」

自身に覚悟を問う刀子に対して秘密を知るメンバーの名前に事の重大さを理解した刹那は若干逃げ腰とも受け取れる答えを口にする。

正直なところ刹那としては大恩がある詠春や木乃香を裏切るなど考えられないし、秘密を守れと言われるならば命をかけて守る覚悟はある。

ただし自分のような立場の者が知る必要がないと言うならばそれに素直に従うつもりだった。


「どのみちすぐに知ることになると思うんだけどね。 横島君はどうしても内に入れるとガードが甘くなるから。 とりあえずお嬢様の護衛自体は神経質にならなくていいわ。 ただお嬢様達はさやかさん以外はほとんど裏のこと知らないのよ。 貴女がその辺り少し気にかけてくれると助かるわ。」

自ら秘密を聞かなくてもと引き下がる刹那に刀子はなんとも言えない表情で刹那の判断を尊重するも、時期に刹那もいろいろと知ることになると確信していた。

ある意味これから刹那は横島に振り回されるのだろうなとも思っているが、少女達の中には本当に魔法関係者の苦労を知る者は居ないだけに期待もしている。

夕映達がいろいろ勉強しているし雪広さやかは以前から魔法関係の勉強をしているが、どうしても一般的な裏の厳しさを知る者が居ないことを刀子は気にしているのだ。

まあ刹那がどこまで少女達に溶け込めるかは分からないが、少なくとも刹那にとっても他の少女達にとっても無駄にはならないだろうと思っているようであった。




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