二年目の春

その夜はタマモが明日菜と寝ることになったので横島は久しぶりに一人の夜だった。

ただまあ意外にやるべきことがあった横島はログハウスのリビングで一人ノートパソコンと向き合っている。


「なにをしている?」

しばらくは暖炉の薪が燃える音とパソコンのキータッチの音が静かに響いていたが、ふと深夜二時を回った頃になるとエヴァが姿を見せた。


「土偶羅からの報告の確認だよ。 完全なる世界の動向とか魔法世界の情勢とか超さんの動きとかは最低限は頭に入れとかんとな。 それに茶々丸ちゃんの新型ボディも考えなきゃダメだし。」

珍しく真剣な横島にエヴァは興味を持つが、その答えには特に反応はなく無言のまま耳を傾ける。


「状況が悪いのか?」

「悪いというほどじゃないけど、楽観視出来るほどでもないかなぁ。」

横島本人か土偶羅から知らないが影でコソコソ動いているのはエヴァも薄々理解していたが、改めて真面目に対策を考える横島の姿はエヴァに思っていた以上に現状が悪いのかと危機感を抱かせてしまう。

ただ実際問題として現状がそれほど悪いのかと聞かれると否と言えるも、歴史の流れやそれぞれの動きを考えるととてもいいとは言えなかった。


「超さんの件もどうするか地味に難しいし。」

いつ来るか分からないフェイトの存在や魔法世界で暗躍しようとするクルトの存在も気になる。

そんな中で横島が一番悩むのは敵だと言い切れない超鈴音の問題だった。


「阻止すればいいではないか。 何を悩む必要がある。 来るか来ないかもわからぬ奴の未来の為に何故目の前の現実を犠牲にしなければならないんだ?」

「そりゃそうなんだけどさ。 ぶっちゃけ超さんの気持ちも分からなくもないんだよ。」

横島自身は超鈴音の未来世界の情報をほとんど聞いてなく、今のところ聞く気もない。

すでに平行未来となったとはいえあまり関わるとそちらの未来に近付くことにもなりかねない。

残念ながら繊細な因果率の調整や歴史の流れの調整は横島には無理で、そこのところは土偶羅に任せるしかないのだ。

ただそれでも単身で過去に来て自分の命と引き換えに未来を取り戻したいと願う気持ちは痛いほど理解してしまう。

横島自身も状況が違えば同じ道を選んだような気もすることも悩む一因にあるが。


「貴様はやはり甘いな。 甘すぎる。 人が中途半端に万能の力を持つとそうなるのかもしれんがな。 奴は奴の目的の為に全力で世界を盗りに来たのだ。 貴様が守りたいなら全力で答えればいいだけではないか。 奴もそれを望んでいる。」

この時エヴァは自身が以前から感じていた違和感の理由に気付いた気がした。

横島は自身の力やアシュタロスの遺産の力と比べると精神が未熟というか幼いのだ。

世界を左右どころか操れるほどの力がありながら精神は普通の人に毛が生えた程度でしかない。

横島は超鈴音の気持ちを理解するとは言うが、それはある意味超鈴音の一面でしかないとエヴァは思う。

そんなエヴァの言葉に横島はハッとした表情をしながらも微かに苦笑いを浮かべるしか出来なかった。


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