二年目の春

「綺麗……。」

ゲレンデで宴会をしながらスキーや雪遊びを満喫する一行だったが、時間はすでに夕方を回りアルプスの山々に夕陽が沈む頃になっていた。

ちょうどこの日は天気もよくマッターホルンが鮮やかなオレンジ色の夕焼けに包まれる光景には最早言葉も出ない。

高畑と刀子達も少し前に合流していて、エヴァは夕焼けを肴にチャチャゼロやハニワ兵達とかまくらの前で熱燗を飲み始めている。

マッターホルンとアルプスの山々を見ながらかまくらの前で日本酒の熱燗を飲む姿は何処か不釣り合いにも見えるが、これこそここでしか出来ない贅沢なのかもしれない。


(昼と夜の狭間か。)

そして横島はタマモを膝の上に乗せながら、同じ光景を見ている。

どれだけ時が過ぎても世界が変わってもこの瞬間だけは変わらないし、あの時のことを思い出してしまう。

まともな恋愛経験がない横島にとって数少ない恋愛と言える思い出であり、人生の分岐点だったのかもしれないと今になると思う。

彼女とも他の仲間達同様にいずれは再会出来るだろうから変に感情に浸るつもりなど更々ないが、それでもあの頃が懐かしく感じるのは今後も変わらないだろうと横島自身感じる。



「今時海外旅行も珍しくないけどさ、なかなか見れるもんじゃないわよね。」

そのあと日が暮れると気温が下がるのでこの日の泊まる場所に移動することになるが、この日は少女達の希望でスキー場近くのログハウスに泊まることになった。

某アルプスの少女のアニメに出てくるような本格的なログハウスは木の香りがとてもよく暖房も本物の暖炉である。

横島はタマモを連れて夕食の食材を取りに出掛けた為に残りのメンバーは暖炉の火で冷えた体を暖めているが、少女達はアルプスの夕焼けの余韻か少し興奮気味であった。


「珍しくないけど、ヨーロッパ旅行は高いわよ。」

「それに天気もこんなにいい日に来れるかと言われると、なかなか難しいですわ。 私とあやかちゃんは本物のマッターホルンを見たことがあるけどこんなに天気よくなかったもの。」

インパクトで言えば前回のホエール君でのホエールウォッチングには及ばないが、テレビでしか見られないような絶景は十分印象深い。

今回は一応元の世界でもタイミングが合えば見られる物であるが、刀子なんかは金額的に簡単ではないと言うし雪広姉妹ですら天候の関係で初めて見たらしい。


「でもまあ、マスターも相変わらずよね。」

「確かに、よく言えば庶民的ってことなんだろうけど。」

そのまま少女達の話はこの場には居ない横島に移っていた。

魔法世界で英雄の一人として見られている高畑を圧倒したのにも関わらず、誇るどころか少し困ったようしたり気遣う姿には流石に違和感もある。

謙虚なことは人としては美徳とも言えるが横島の態度が謙虚とはまた違うのは以前からの横島を見れば明らかなのだ。


「ただいま~!」

横島の過去には何があるのだろうか、誰も口にはしないが実際に戦う姿を見ると誰もが改めて気になったことである。

あまり過去を話したがらない横島には聞けないし、いつか話してくれるのだろうかと考えてるうちに夕食の食材を取りに出掛けた横島とタマモが帰ってくる。

元気な笑顔で帰って来たタマモを少女達も笑顔で迎えると、木乃香やのどかは夕食の支度を手伝いに横島の元に向かう。

まあそれぞれがいろいろ思うところはあるが、今はこの時間を楽しむことを優先させるようだった。




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