二年目の春

「肩に力が入りすぎてるなぁ。」

ゲレンデで宴会のようになり始めたスキー場であるが、横島は甘酒とチーズフォンデュを霊動シミュレーターにいる刀子達に差し入れに訪れていた。

あのあと高畑・刀子・刹那が交代でシミュレーターに挑戦しているようだが、現在はちょうど高畑が挑戦していて横島はその姿を見て少し苦笑いを浮かべる。


「そうかしら? 確かに気合いは入ってるけど。」

「いやまあ、修行だからいいんですけどね。」

表面上はポーカーフェイスで戦う高畑であるが、少しばかり肩に力が入りすぎていて力のコントロールが雑になっていた。

刀子は気付かぬようだが先程の横島の力を見せつけられた結果、焦りにも似た感情もあるのかもしれない。


「もうちょっと基礎的な修行をした方がいいような。」

何度も言うが高畑は高いレベルで完成された戦士である。

対アーウェルンクスのシミュレートを重ねるのは悪いことではないが、正直なところ戦闘技術や実戦経験は現状から早々上がるレベルではない。

横島の見立てではそれより力のコントロールなどの基礎的な技術の方がまだ早めに向上するのではと見ていた。

別に高畑が基礎を疎かにしている訳ではないが、横島の元世界も刀子達の世界でも人間は基礎的な技術が意外と雑だというのが現状にある。

特に高畑の場合には現状から大幅にレベルアップするには、いつかより高い基礎的な技術が必要になる可能性があるのだ。

ただまあ現状では高畑にそれを直接指摘するほどではなく、あくまでも刀子との雑談だからこそこぼした話だった。

横島としては高畑の実力では他者が余計な口出しをせずに自ら考え見出だすべきだと思っている。


「私と刹那の方はどうかしら?」

「二人とも十分強いじゃないっすか。」

一方刀子は高畑について語る横島に自身と刹那について意見を求めていた。

あまり口出ししたくない様子なのは見ていれば分かるが、現実的な問題として実力者からのアドバイスは欲しいのが本音である。


「なんか、まるで私達のことはどうでもいいみたいに聞こえるけど?」

「いや、そういう訳じゃ……。 戦闘面だと神鳴流はほとんど完成されてますし。 高畑先生みたいに人生イコール戦いみたいな人とはまた話の次元が違うじゃないっすか。 どうしてもって言うなら夜にでも修行の相手をしますけど。」

刀子と刹那は真剣に横島の意見を聞きたいようだが、自分がいい加減な生き方をしていた横島は基本的にあれこれと他人に指摘するのに抵抗があった。

まして明確な敵が居て目的もある高畑と、魔法関係者ではあるが比較的平和に暮らす刀子達では求めるレベルも違う。

安易にアドバイスをしていいのか分からないという部分もある。

ただ刀子は刀子で横島の扱いを心得ているので、ちょっと不満げに求めてあっさりと横島から修行相手になるという言葉を引き出していた。

結果として完全に誘導した形になり少ししてやったり顔をする刀子であるが、刹那はかつての刀子を思いだし別人のように変わった刀子を少し羨ましげに見つめていた。




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