二年目の春

さて横島と高畑はようやく戦いらしいものになっていたが、最早実力差は少女達にも分かるものだった。

居合い拳は豪殺も普通のも含めて横島は完全に防がれるか避けられてしまい、必然的に高畑は居合い拳以外の戦いを強いられることになっている。

結果として最近まで魔法を使えなかった高畑とすれば、付け焼き刃である魔法を使うという選択肢はなく純粋な体術での戦いを選択していたのだ。


「あんまりあれこれ言うと偉そうとか嫌みに聞こえそうで言いにくいんっすけど、本当に強いですね。 欠点らしい欠点もありませんし。」

高畑の体術は体格と咸卦法を生かしたものであり修行も実戦経験もあるので、お世辞抜きにして強く目立つ欠点も特に無い。

横島との戦いは相変わらず受け身の横島に高畑が一方的に攻める形であり、高畑は軽くあしらわれてる感じが否めないが横島は本心から素直に評価している。

尤も横島は本物の英雄の一人である高畑に対してどう対応するべきか地味に悩み気を使ってもいたが。


「出来れば遠慮なくアドバイスしてくれると助かるよ。 褒められて悪い気はしないが強くはなれないからね。」

ただあまりの実力差に悔しさがないと言えば嘘になる高畑であるが変に気を使われるのは余計に望んでなく、強くなる為には中途半端なプライドなど持つ気は更々ない。

仲間を失い師匠を見捨てて逃げたあの日から高畑は不要なプライドなど持ったことは一度もない。


「……うーん、正直実力に比べると怖さはあんまりないですかね。 居合い拳も体術もセオリー通りといえばそのままなんで。」

対する横島は高畑の内心にある悔しさも強さへの思いも気付いていたが、アドバイスと言われると少々困った表情をする。

よく修行をして実戦も豊富に経験しているしエヴァが鍛えただけに欠点らしい欠点も特にない。

人間の頃の横島と比べると天と地ほど差があるほど完成された戦い方をするが、逆に言えばそれ故に安定していて何をしてくるか分からないような怖さは無かった。


「ただまあ、だからと言って現在のスタイルを崩す必要も感じませんけど。」

良くも悪くも真面目な高畑の性格がそのまま戦い方にも反映されているが、欠点がないのも荒さがないのもそれは決して悪いことではない。

それでも高畑は自分のスタイルを壊しても強くなりたいのかもしれないが、自分のスタイルを壊したからと言って必ずしも強くなれる訳でもなくそこは難しいところになるだろう。


「そうそう、強くなりたいなら咸卦法はまだまだ上を目指せますよ。 異なる力の融合は奥が深いっすからね。」

結局アドバイスらしいアドバイスがなかなかない横島は少し悩んだ後、高畑に一つの道筋を見せてやることにする。

高畑が使う咸卦法は気と魔力の融合であるが、実はそれは極めれば今と比べ物にならないほどの威力を出すことも理論的には不可能ではない。

気と魔力とはいわゆる人間の内なる力と世界の力を融合するのだが、それはより極めれば力を融合するのではなく共鳴させることで爆発的な力を得ることが出来るはずだった。

横島は説明しながらも肉体がないので気の代わりに霊力を用いて、高畑の目の前で内なる力の霊力と世界の力といえる魔力を咸卦法の要領で目の前で共鳴させて見せるとそれは高畑が見たこともないほど圧倒的な力が溢れ出す。



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