二年目の春

「お疲れさまです。 これ先程のシミュレートで取れたデータっすよ。」

コントロール室に戻って来た高畑は少女達からその強さを誉められると満更でもない表情をするが、横島が先程のデータを書類にして手渡すと驚きの表情に変わる。


「こういうのは初めてだな。」

高畑も今まで散々修行をしてきたが自身の技術や戦闘を詳細なデータとして見たことはない。

映像として記録するくらいならば魔法もあるが、実際に確かな数値を用いたデータとして見るとは思わなかったのだ。

しかもガトウのデータまであるので高畑はガトウと自身のデータを比べて自分の実力を客観的に見直すことになる。


「次はどうします? 何なら二人一緒でもいいですけど。」

「対戦相手は選べるのかしら?」

「選べますよ。 神鳴流でしたら若い頃の詠春さんならシミュレート可能っすね。」

そして高畑がデータを見直す中、横島は次の挑戦者である刀子と刹那の戦いの話を始めていた。

高畑は横島に任せたが当然ながら対戦相手や環境なんかは選ぶことが出来る。


「出来れば始めは人じゃない方がいいわ。 私と刹那は実戦経験を積みたいから。」

「それじゃあ、魔物を適当に選んどきますよ。」

結局刀子と刹那は一緒に挑戦することになりシミュレーター内に移動するが、刀子はともかく横島をあまりよく知らない刹那は少し緊張気味だった。


「刹那は昨年少し実戦経験積んだんでしょう? 私は本当に久しぶりなのよね。」

「はい、龍宮に誘われまして。 私も正直あまり実戦から離れると不安なので。」

共に大きな野太刀を持ち戦闘準備に入るが、ここ最近では刹那の方が実戦経験を積んでいて刀子は仕事が忙しいこともあり久しぶりの実戦のようだ。

まあ刹那も数少ない友人である龍宮真名に誘われて何度か魔物退治をしたくらいだったが。


「龍宮真名ね。 実際はどうなの?」

「強いですよ。 実戦経験も豊富なようですし、多分私だと勝てないと思います。」

シミュレートがされるまで少し時間があることから刀子は以前から少し気になっていた龍宮の実力について尋ねていた。

まだ中学生にも関わらず龍宮真名は裏の世界では結構知られた有名人である。

口が悪い人は殺し屋などと言うが実際には傭兵という方が適切で、魔物退治から傭兵まで幅広く仕事を請け負っている。

関東魔法協会でも仕事を頼む時もあるが、場合によっては敵に回る可能性も捨てきれない人物として同じフリーの魔法関係者としてエヴァほどではないが一部の魔法使いから警戒もされていた。


「だとすると私も勝てないかもね。」

そして刀子自身は元々龍宮をさほど警戒していた訳ではないが頭の片隅には常に入れていた人物である。

今までは普通に考えて地元の魔法協会を敵に回すことはしないだろうと思っていたが、簡単には勝てないとなると少し問題かもしれないと刀子は思う。

何より龍宮は明日菜を知っていて麻帆良の外の魔法関係者との繋がりがある人物なのだ。

ひょんなことから明日菜の正体が漏れないとは限らない。

もちろん龍宮は誰彼構わず仕事を受ける訳ではなく筋の通らない仕事は受けないとの噂だが、そもそも筋や大義なんかは場合によっては双方にあるものである。

刀子は龍宮の件を横島に後で相談するべきだと密かに考えていた。


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