二年目の春

さて高畑とガトウの対戦は決着がつかぬまま長引いていた。

原因は幾つかあるが一つはシミュレートされたガトウは流石に致死性の攻撃が出来ないように設定されていることと、戦い方自体もまるで高畑を教え導く師のように積極的に決着をつけない戦い方であることも一因である。

そして高畑の方にも決着が着かぬ原因があり、高畑もまた積極的に決着をつけようとしてなかったことも大きい。

最近修行している魔法に関しても全く使用してなく高畑自身も魔法を上手く使えば勝機はあると考えていたが、本人かと疑うほど似ているシミュレートガトウとの戦いを高畑が終わらせたくなかったと言うことがある。



「タカミチ、タバコくれねえか?」

結局高畑の戦いは横島からストップがかかるまで決着がつかずに終わるが、シミュレートされたガトウは何故か最後の最後に高畑からタバコを貰い吸っていた。

それは高畑が知る本物のガトウそのものに見えてしまい、高畑は普段抑えていた感情が爆発しそうなほどである。


「師匠……。」

「勘違いするな。 俺は偽者だ。 タバコの旨さは同じだがな。」

話したいことは山ほどある高畑であるが、ガトウが語るように所詮は霊動シミュレーターが作り出した偽者なのだ。


「タカミチ知ってるか? 人は死んでも魂は不滅らしい。 あの世とやらに行きやがて新たな命として生まれ変わるんだと。」

途切れ途切れに交わす言葉が何より重く心に響く高畑だが、ガトウは突如不思議な話を高畑に話して聞かせ始める。

このガトウはシミュレーターが作り出した偽者であるが、言い換えればシミュレーターから技術や知識などが与えられるという事実もある。

あの世界でははっきりと証明されてない魂の行く末をガトウは高畑に語って聞かせていた。


「一人で何でもかんでも背負い込むなよ。 そしてお前自身も幸せになれ。 きっと本物の俺もそう願ってる。」

シミュレーター内にはシミュレート終了の案内が流れる中、シミュレートされたガトウは吸い終えたタバコの火を消すと高畑に一言言葉を残して消えていく。

高畑は決して涙は見せなかった。

ただガトウが居た場所をほんの僅かな時間だけ見つめて横島達が居るコントロール室に戻って行った。



「高畑先生……。」

一方コントロール室では高畑の戦いを見学していた明日菜が、今までに見たことがないような高畑に驚きガトウと戦う姿には何故か胸が締め付けられるようだった。

他の少女達は特に何も感じてなかったようだが、少なくとも最後の会話は感情を揺さぶるものがあったらしくしんみりとした空気が広がっている。


「高畑先生といい、横島さんといい、本当に魔法って……。」

何故自分が胸が締め付けられるような感じになるのか明日菜は理解してないが、ただ魔法という神秘の力に対してより複雑な感情を抱かずにはいられないようだった。

ただ今の明日菜はそんな悲しみに飲まれるほど弱くはない。

自分や友人達で横島や高畑を支えてやればいいのだと気持ちを新たにすることになる。



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