二年目の春

その日の夜、茶々丸はホテルの窓から星空を見上げ悩んでいた。

超鈴音のことも考えなければならないが、他にもこの日のボディの調査の後に横島から告げられたことも考えねばならなかったのだ。



「超さんのことはとりあえず置いといて、今後のことだけどボディのメンテナンスは当然としてそれ以上の改良や強化に新型ボディも可能だから考えておくといいぞ。」

「改良や強化に新型ボディですか?」

「うん、まあ別に現状でいいなら必要ないがな。 ただここには茶々丸ちゃんが考えてる以上の技術がある。 要は茶々丸ちゃんが自分のボディをどうしたいかだ。 実は限りなく生命体に近い有機ボディのようなものも可能っちゃあ可能なんだよ。 具体的なことは今度ゆっくり相談に乗るがな。」

相変わらずの軽い調子で信じられないことを説明する横島にエヴァとチャチャゼロは慣れているが、茶々丸はやはり戸惑ってしまう。

そもそもガイノイドに自分のボディを自分で考えろと言う横島に茶々丸は違和感を感じずにはいられない。

かつて人が神に並ぼうとして建てたとの伝説があるバベルの塔にてそれを言われたことは、客観的に見ると自らの創造主に逆らった茶々丸自身の行動と重なる皮肉にも思える。



「マタ悩ンデルノカ?」

「チャチャゼロ姉さん。」

正直なところエヴァの変化や自身の行動に横島のことと、短期間にあまりにいろいろありすぎて茶々丸は戸惑っているのかもしれない。

そんな茶々丸に声を掛けたのは同じく眠りを必要としないチャチャゼロだった。

ルームサービスで頼んだ酒を一人で飲んでいたが、じっと夜空を見上げる茶々丸が気になったのだろう。


「何故横島さんは、私にあれほど親身になってくれるのでしょう?」

「ナンダ、ソンナコトカ。 アノ男ハ自分ガ気ニ入ッタ奴ニハ甘イカラナ。」

エヴァと長い時を共に過ごしてきたチャチャゼロもまた魂を持つ存在であり、チャチャゼロと茶々丸はその関係のみならず魂からして姉妹と言えるほど近い存在だった。

故に茶々丸の悩みがチャチャゼロにはよくわかるのかもしれない。


「では何故私は気に入られたのでしょう?」

「ソリャオ前ガ自分デ考エテ前ニ進ムカラジャネエカ」

茶々丸自身はいろいろ考えねばならぬことや疑問があるが、現状で気になったのは横島の態度と言うか対応のようだ。

エヴァが頼んだのだろうが、それを抜きにしても横島は自分に親身になってくれる。

前々から茶々丸としては不思議なことを言われることが何度かあったが、今回でその理由が気になったらしい。

そんな茶々丸の疑問に答えるチャチャゼロは横島には明確な理由も訳もないことを理解しているが、あえて理由を告げるとすれば茶々丸が自ら考え前に進むからだと思っていた。

これはエヴァにもそんな部分があるが、横島もまた自ら進む者に甘いとチャチャゼロは思う。


「アノ男ニオ前ノ常識ハ通用シネエゾ。 時々居ルンダヨ。 アアイウ変人ガナ。 アノ男ハ普段ハ普通ニ見エルダケニタチガ悪イケドナ。」

チャチャゼロ自身は横島よりもタマモと一緒にいることが多いが、長い人生の中でも指折りの変人だと確信している。

かつてエヴァが長年待っていたナギを筆頭にチャチャゼロから見て変人は何人か居たが、横島はもしかすれば過去のそれらの人物よりたちが悪いと感じる。

ナギや赤き翼の面々もチャチャゼロから見ると変人ばかりだったが、彼らは普段から変人だが横島は普段は割と普通に見えるのだ。


「好キナヨウニスレバイイサ。 ゴ主人モアノ男モソウ思ッテルゾ。」

未だに迷いの中に居る茶々丸を見てチャチャゼロは好きなようにすればいいと笑っていた。

ガイノイドとしてAIでは本来あり得ない迷いという行動は茶々丸が生きてる証しでもある。

チャチャゼロはそこまでは知らないが悩み生きる妹にチャチャゼロなりの言葉で背中をそっと押してやっていた。



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