二年目の春

翌日はホワイトデーであるが、横島の店はお客さんの男女比率がかなり偏っているのでごく普通の朝を迎えていた。

元々ホワイトデーはバレンタインよりは盛り上がりに欠けてるのが現実であり、各所でお返しを渡す姿は見られるがそれ以上ではない。


「今朝は顔を見せないからどうしたのかと思えば……。」

この日はバレンタインのお返しをしようと張り切っていた横島とタマモだが、いつもならばほとんど毎朝猫達に会いに来る茶々丸が来ないことを気にしていた。

特に横島は茶々丸にバレンタインのお返しをしようと待っていたのだが、そんな疑問に答えたのは朝も過ぎた午前十時頃に店を訪れたエヴァである。


「茶々丸のメンテナンスは頼む。」

「そういうことは先に言って欲しいんだが、……まあいっか。」

実はエヴァは茶々丸のメンテナンスを横島に頼むつもりだったのだが、本人に伝えてなかったらしく事後承諾を取りに来たらしい。

流石に横島も先に言って欲しいと口にするも別に出来ない訳ではないのでアッサリと承諾していた。

ちなみにエヴァは出来るか出来ないかなんて全く聞いてなく出来る事を前提に勝手に話を進めている。


「一度データは取らなきゃな。 予備の部品とか作らなきゃならんし。 尤も術でもなんとかならんこともないけど。」

ただ横島としては茶々丸のメンテナンスをするならそれなりに準備は必要であった。

ボディの部品は作らなければならないし、基本的な構造やシステムはあらかじめ把握しておきたい。

まあ文珠でもメンテナンスが出来るとは思うが。


「それにしてもずいぶん思いきったな?」

「奴のこと嫌いではないがあの計画は迷惑だ。」

「まあな。」

横島は土偶羅に茶々丸のメンテナンスの準備を頼むかと考えつつ、事実上の決別宣言をしたエヴァに視線を向けた。

エヴァも横島も個人的に超のこと嫌いではないが、共に彼女の計画が認められないというか迷惑なのは同じである。


「ジジイにも借りがあるからな。 今のうちにはっきりさせておいた方がいい。」

ただエヴァがこのタイミングで超と距離を開けたのは、エヴァの呪いを解くために尽力した近右衛門への気遣いも含まれていた。

ここでエヴァが超に力を貸してるなどと思われると呪いから解放した近右衛門の立場が悪くなるのは考えなくても分かる。


「産みの親か。」

「子供はいずれ自立するものだ。 茶々丸はそれが少し早いだけに過ぎない。」

一方茶々丸の件だが、意外かもしれないがエヴァは茶々丸が超と決別すると信じているようだ。

横島はそんなエヴァと茶々丸の信頼関係に何処か懐かしさのようなものを感じつつ、茶々丸のことが気になってしまう。

かつて横島の知り合いには自らの創造主と数百年の時を共にしたアンドロイドがいたし、自らの創造主に反旗を翻した魔王や女性達もいた。

茶々丸には余計な手出しをする必要はないのかもしれないが、産まれて僅かでしかない彼女が自ら道を選ばねばならないこの状況には何とも言えない心境になる。

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