二年目の春

それから数日が過ぎた十三日の夜になると横島とタマモはホワイトデーのお返しを作っていた。

バレンタインでは店の常連から二人合わせてかなりの数を貰っていて、当然ながらお返しをせねばならない。


「マカロンをお返しにするの?」

「うん! おいしいしかわいいから!」

タマモに関してはお返しに何をあげるか決めていて、マカロンをお返しに選んだらしく横島が作ったマカロンをさよに手伝って貰いながら丁寧に自分でラッピングしている。

マカロン自体は古くからあるお菓子なのでさして珍しくもないが、まだこの世界のこの時代ではブームが起きてなく意外に食べたことがない人も多いだろう。

しかもタマモはバレンタインにチョコを暮れた人全てに絵入りのメッセージカードを数日前から書いていて、こちらを付けてのお返しとなる。


「マメだよなぁ。 だから貰う量も増えるんだろうな。」

横島自身はモテない代表のような過去なのでお返し自体ほとんど経験がないが、タマモを見ているとかつての自分にはないマメさが違うと感心したようにタマモを見ていた。

始まりはタマモが東京に行ったお土産を配ったことであるが、それ以降はお土産やお返しをあげる以上にとにかくマメであり顔を会わせるとお礼を言うなど日頃の行動が違うと横島は感じている。

まあ幼いとはいえ金毛白面九尾であるタマモは記憶力が人間の幼子とは比べ物にならないほどいいのもポイントなのだろうが。


「横島さんはマドレーヌなんですね。」

「あんまり気合いの入りすぎた物は重いだろうと思ってな。 結構悩んだんだけどさ。」

一方の横島のお返しはマドレーヌであった。

当初はクッキーをと考えていたが、あまりに定番過ぎると他の人のお返しと被るからと美砂達にアドバイスを貰いマドレーヌにしている。

同じよりは被らないほうがいいだろうとの結論である。


「まさか俺がこうしてホワイトデーにお返しをすることになるなんてな。」

楽しげにラッピングするタマモの姿に横島もさよもそれだけで気持ちが温かくなるようであったが、横島はどうしても過去を思い出してしまうらしく何とも言えない表情で過去に想いを馳せていく。

未だに朝起きたらあのぼろアパートに居て、全ては夢だったのだという夢を見る時がある。

当時の自分にいつかお返しを悩むほどバレンタインチョコを貰うと教えても絶対に信じない自信があった。

そもそも昔の自分は人に求めることはあっても与えることがなかったのかもしれないと思うと苦笑いしか浮かばないが。


「あしたがたのしみだね!」

そんな横島であるが相変わらず貰うことよりもあげることに喜びを感じるタマモは、わくわくドキドキと言いたげな表情で一つ一つ丁寧にラッピングしていく。

本当に誰に似たんだろうかと改めて不思議に感じるタマモに横島は思わず笑いだしてしまっていた。

33/100ページ
スキ