「一人でって、そんな……」

「貴様は気付いてなかったか。 葛葉刀子。」

いざとなれば一人でやりたいのだと語るエヴァの言葉に横島は何も反応しなかったが、代わりに反応したのは刀子であった。

自分には関係ない話に本来は口を挟むつもりがなかった刀子だが、思わず驚きを声に出してしまい意外にもエヴァがそれに答えるかのように刀子に話しかけていた。


「貴様やタカミチにとって無茶でも、横島にとっては無茶でないとしたら？」

それは刀子でなくとも無茶だと思うだろうし、実際に刀子の頭にすぐに浮かんだのは無茶だという言葉である。

だがエヴァは横島ならばそれが無茶ではないと考えてるようであった。


「勘違いするな。 貴様やタカミチは十分に強い。 人としてはな。」

エヴァの言葉は限りなく真実に近いと刀子に受け取られたようで、存外に戦力にならないと言われたような刀子はショックを受けてしまう。

幼い頃より苦労して身につけた力は刀子の誇りでもあるのでショックを受けるのは当然だが、エヴァはそれを認めた上で横島がその上だと言いたいようである。


「なんか、いろいろ真実と誤解がごっちゃになってるなぁ。 説明しなかった俺が悪いのか。 別に出し惜しみしてる訳じゃないけどさ。」

そんなエヴァと刀子のやり取りを渋い表情で見ていた横島は困ったように深いため息をつく。

エヴァも刀子も横島の真実の一端を理解してるが、それと同時に誤解もいろいろ増えている。

横島自身過去をあまり語らないのはいろいろ恥ずかしいからでそれ以上ではないのだが、このままでは良くないのは誰の目から見ても明らかだった。


「確かにみんな不安なんだよな。 何かを守るとか自分の意思を通すなんて簡単じゃないし。」

「確かに貴様が悪い。 人をあてにするなら情報の出し惜しみをするな。」

「だから出し惜しみしてるんじゃないって。 俺は人に話せるような過去なんてないんだよ。」

エヴァにしても刀子にしても互いに親しいとは言えないが、横島を挟んで共通の価値観と利益を共にしている関係である。

仮に共闘せねばならない時が来たら二人は悩むことなく共闘するだろう。

そもそもエヴァが刀子の居る場所で高畑の修行の話をしたのは、彼女の危機感の現れでもあった。

横島は自身のことをあまり話してなかったことが悪いなと苦笑いを浮かべると、エヴァは遠慮なく横島が悪いと言い切る。


「エヴァちゃんの推測はあってる部分もある。 単純な強さで言えば、俺は刀子さんや高畑先生より上だしエヴァちゃんよりも確実に上だよ。」

さっさと話せと言いたげなエヴァに横島は悩みながら話を始めるが、この期に及んで隠してもいいことがないと思ったのか刀子や高畑は元よりエヴァよりも確実に上だと語った。

その言葉にエヴァも刀子も聞き入るように横島を見つめるがそれでも驚きはなかった。

エヴァはある程度推測していたし、刀子も先程のエヴァの言葉を聞いたからか冷静に受け止めている。