二年目の春

その日の夜、木乃香達が帰った後の店には刀子とエヴァとチャチャゼロが居た。

刀子は夕食を食べに来たまま残って仕事をしていたが、エヴァとチャチャゼロは木乃香達と入れ代わるように酒を飲みに来ている。

エヴァと刀子は特に険悪な雰囲気でもないが、だからと言って親しい訳でもなく放っておくと会話をすることがない。

まあ刀子は仕事に集中しているので横島ともしばらく会話してなかったが。


「横島、貴様タカミチの相手をする気はあるか?」

「はい?」

横島自身は明日の仕込みなどで割りと真面目に働いていたが、一段落してフロアに戻るとエヴァが何の前置きもなく突然高畑の相手をする気はあるかと問いかけていた。

そのあまりに簡潔すぎる言葉に横島は意味が分からんと首を傾げ、刀子も少し気になったのか視線を二人に向ける。


「あの男はナギやガトウに囚われ過ぎている。 いい加減過去から解放してやらねばならん。 だがそれには私ではダメなのだ。 貴様ならタカミチの相手くらい簡単だろう。」

何の話だとすぐに理解できない横島にエヴァは軽く舌打ちをして説明していくが、それに少なからず驚きを感じていたのは横島ではなく刀子だった。

エヴァが高畑のことを横島に頼むほど気にかけていることも驚きであるし、横島なら高畑の相手も簡単だという言葉にも驚いている。


「過去からの解放かぁ。 やけに優しいな?」

「貴様ほどではない。」

一方横島は突然の話に驚き少し面倒そうに考え始めるが、横島は高畑よりも文句を言いつつ高畑に力を貸すエヴァに興味を持っていた。

まあエヴァからすると横島ほどお人好しでも物好きでもないと言いたいのかもしれないが、エヴァ自身は孤独の中で足掻き苦しみながら生きて来ただけに同じく足掻き苦しみながら生きている高畑に多少なりとも力を貸しているのだろう。


「あんまり気乗りはしないんだがなぁ。 好きじゃないんだ。 戦うのって。」

「私とて好き好んで戦って来た訳ではない。 それにそもそもタカミチに魔法を使えるようにしたのは貴様だろうが。」

エヴァからの予期せぬ提案に横島は、正直気乗りがしないと口にして戦うのが好きではないと言い切る。

高畑のことは尊敬もしてるし共感する部分もあるので気まぐれで魔法を使えるようにしたように力を貸すのは構わないが、それでも横島は自身が戦いの相手をするというのには抵抗感があるらしい。

エヴァ自身も好きで戦って来たわけではないので横島の心中を察してはいたが、それでも高畑に魔法を使えるようにしたのは横島であり最後まで責任を持てとも言いたいようだ。


「貴様はなんだかんだと言いつつ、いざとなれば一人でやりたいんだろうがな。 だが貴様の思い通りにはいかんぞ。」

あまり気乗りがしない横島にエヴァは特に驚きもなくやはりと言いたげな表情をしていて、横島が高畑に期待してるようで期待してないことも見抜いているらしい。

そもそも横島は口では万が一の時には高畑や刀子にエヴァの力を借りると言っているが、実際にその時が来たら本当にそうするかはまた別問題であった。

エヴァは実際にその時が来たら横島は一人で動いてしまうだろうと見ているようである。



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