二年目の春

翌日の日曜日は麻帆良春祭りの打ち合わせのために坂本夫妻が店を訪れていた。

春祭りでの仕事を依頼したサークル関係者と仲介件協力者としてあやかと夕映とのどかに坂本夫妻の夫で話し合いが行われることになる。


「思ってたよりもいい状態だわ。」

一方坂本夫妻の妻は話し合いを夫に任せて横島とタマモと共に庭に出ていた。

花や野菜などを一緒に植えようと妻がタマモと約束をした一貫であり、この日は手始めに庭の状態の確認をすることにしたらしい。


「いや~、ぶっちゃけ去年は苦労しましたから。 こっちは料理とちがってほとんど経験がなくって。」

「だいこんがね、おおきくならなかったの。」

土の状態に庭の果樹の木や多年草の花の球根などを丁寧に確認していく坂本夫妻の妻は懐かしさと喜びが入り交じったような様子であったが、横島とタマモから昨年の苦労話や失敗談などを聞くと素直に笑っていた。


「植物を育てるのは難しいわ。 私も若い頃は何度も失敗したもの。」

見た目の若さにそぐわないような料理の腕前を持つ横島の若者らしい失敗談に、坂本夫妻の妻は少しホッとしたモノを感じつつ自身の経験を語っていく。

夫が横島の料理のセンスや勘が良すぎることを危惧していたこともあり、分野は違うが失敗や試行錯誤している経験があることは正直良かったとすら思うのかもしれない。



「本当によろしいのですか?」

「ああ、夫婦で食べていくくらいの蓄えはあるからな。」

その頃話し合いをしている坂本夫妻の夫は春祭りでの報酬は不要だと発言してサークル関係者を驚かせていた。

元々坂本夫妻の夫は歴史ある麻帆良亭の店主だったこともありサークル関係者はそれに相応しい報酬を提示していたが、流石に報酬が足りないと言われることはあっても要らないと言われるとは思わなかったらしい。


「私達はこの街に育てられたからな。 この機会に恩返しするのも悪くはない。」

「では今回はボランティアのイベントとして売り上げを麻帆良学園奨学金基金に寄付することにしてはどうでしょう。」

実は夕映達を通して事前に坂本夫妻から依頼に対しての返答をしていたが、坂本夫妻は自分達の報酬は不要なのでその分奨学金基金に寄付してほしいとの要望がサークル関係者には伝わっている。

サークル関係者は基本的にその話を承諾して今回の話し合いに望んでいるが、坂本夫妻がボランティアで働くならば更にイベントそのものをボランティアにするとの提案がサークル関係者側から提案された。


「私は構わないが君達は大丈夫なのか? 春祭りや麻帆良祭での収益はサークル活動に必要だろう?」

「今回は元々利益を上げたくて依頼した訳ではありませんから。 麻帆良亭の歴史や伝統の味を今の生徒達に知って欲しくて依頼したんです。」

麻帆良学園のサークルにとってイベントでの収益はサークル活動の活動費になることを当然知っている坂本夫妻の夫は、自分達の提案でサークルにボランティアを強要させるような形になるのは望まないらしく、無理をしなくてもいいと諭すように話していくがサークル関係者も自分達なりの考えがあって発言しているようである。


「そういうお話でしたら、私も少しばかり協力をさせて頂きますわ。 必要な食材や資材は雪広グループが提供致しますわ。」

その後双方共に意見を話していき最終的に坂本夫妻のイベントをボランティアにすることが決まると、終始控えぎみに話し合いを聞いているだけだったあやかが必要な食材や資材を雪広グループで提供すると発言して坂本夫妻の夫やサークル関係者を驚かせることになる。


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