二年目の春

そしてこの日も夕方を過ぎる頃になると店には雪広グループ関係者が訪れていた。

その人物は麻帆良カレーの商品化の際に協力した雪広食品の開発部の人で、この日はこの夏に発売予定の新商品の試食を頼みに来ている。

以前にも何度か頼まれて新商品の試食をしたことがある横島であるが、その時のアドバイスというか感想が意外に評判がいいらしい。


「へー、パスタソースっすか。」

どうも最近は開発に行き詰まると横島に試食を頼みに来ているらしく、この日はレトルトのパスタソースを数種類持参していた。


「これならウチも食べたことあるえ。 休みのお昼とかに簡単でええんや。」

雪広食品からはレトルトのパスタソースがシリーズで発売されてるらしく、日頃から自炊している木乃香も何度か使ったことがあるらしい。

お手頃な値段で本格的な味だと人気の商品のようだ。


「ええ、夏に向けて新作を開発中なのですが、今一つ決め手に欠けてまして。」

横島と木乃香とのどかに加えてすっかり食いしん坊になっているタマモと桜子までが厨房に来ているが、雪広グループ関係者はすでに横島の店に慣れてるらしく気にする様子もなく試作品の説明を始める。

いわゆる夏に現在販売してる商品をリニューアルする予定らしく、同パスタソースシリーズ全部を新たに開発中らしい。


「とりあえず食ってみるか。 どうだ?」

パスタ自体は横島の店にもあるのでまずは普通にレトルトと合わせて試食してみることにするが、横島は真っ先に食べたタマモと桜子に感想を求める。


「普通に美味しいよ。」

「うん。」

食いしん坊な二人に加えて木乃香達や横島も試食をしていくが、味自体は当然ながら悪くはなく美味しい物だった。

ただ関係者は桜子が真っ先に口にした普通にという言葉に少し渋い表情をする。

実のところ横島の元に持ってくる前に試作と試食は何度も繰り返しているので、味にはそれなりに自信があるのだ。


「普通にってのが問題なんだろうな。」

しかしまあ桜子が何気なく語った普通にという言葉からも分かるように、少し個性というかインパクトがない。

ただ桜子自身もすっかり横島の味に慣れてるので、見た目以上に美味しい物を食べ慣れてるので幾分辛口でもあったが。


「少し手を加えてみるか。」

雪広グループ関係者の求めるモノが何かなんとなく理解した横島は、自分なりにパスタソースのアレンジをしていく。

具体的にどこをどうするかは開発部のプロである関係者に任せるとして、基本的に横島は思い付くままにその方向性を示すだけというのがほとんどであった。


「わたし、もう少し薄味な方がいい!」

そして桜子を始めとした少女達の感想を元に横島が調理した味を関係者が試食して、そのレシピを会社に持ち帰り参考にして商品を完成させていくことになる。


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