二年目の春

「そういえばマスター、楽器とか演奏出来る?」

午後になると木乃香達もやって来て店自体も多くの女子中高生を中心にした常連で賑わうが、同じく土曜の午後に暇を持て余していた美砂が突然横島に楽器の話を振っていた。


「楽器? ギターは一時期練習したなぁ。 バンドやればモテると思ったんだけど……。」

楽器と聞き横島は一瞬ネクロマンサーの笛を思い出すが流石にそれじゃないだろうと、中学時代に一時期ハマったギターの話をすると美砂達はニヤリと意味ありげな笑顔を見せる。


「私達さ、麻帆良祭でバンドやろうと思ってるんだけど協力してくれない? マスターのとこ地下室だと楽器練習して大丈夫でしょ?」

横島が食いついたと思ったのか、美砂は麻帆良祭のバンド大会に参加したいとの話を持ち出して横島に協力して欲しいと頼み始めた。

実は楽器は美砂のツテで古い中古の楽器が手に入るようだったが、練習場所をどうするかで少し悩んでいたらしい。


「ばんどってなに?」

「楽器で演奏しながら歌を歌うことよ。 音楽番組とかで見たことない?」

「ある! ばんどするの?」

学校でも場所を探せば見つかりそうだったものの、女子寮から近い横島の店の地下室ならば音漏れの心配がないことから練習に最適だと目を付けたようだ。

横島は地下室を使うくらいならと安請け合いするが、そんな時美砂達が何かを始めると気付いたタマモは興味津々な瞳で話に加わる。


「そうだよ。 タマちゃんもやる?」

「うん! やる!」

タマモが何処までバンドを理解したかは不明だが、何か楽しいことだと思ったらしく美砂から誘いを受けると即決でやると言い切ってしまう。


「でもタマちゃんでも出来る楽器ある?」

「大丈夫、大丈夫。 なんかあるって。」

美砂の誘いにすっかりやる気になったタマモはご機嫌な様子で喜ぶが、流石に幼いタマモに楽器が出来るのかと円なんかは心配そうだ。

ただ美砂は最悪コーラスか楽器を持たせて一緒に参加させるだけでもいいんじゃないかと気楽な様子である。


「あんた達ねぇ、大丈夫なの?」

「楽器はタダで借りれるからやるだけやってみようかと思って。」

一方明日菜はまた妙なことを始めようとしている美砂達に大丈夫なのかと不安げであった。

タマモがすでにやる気になってるので止めはしないが、また横島を巻き込むつもりらしい美砂達に明日菜はどうなるやらと不安になるらしい。

それは史実ではでこぴんロケットというバンド名で活動するバンドの始まりであったが、この世界ではさっそく好奇心旺盛なタマモが加わったことによりすでに史実から逸脱し始めていた。


「バンドかぁ。 モテるかな?」

ちなみに横島はさらっとメンバーとして当てにされていることに気付くが、もしかしたらバンドをやればモテるかもと昔の夢を思い起こし満更でもなさそうである。

しかし当然ながら美砂達や明日菜達に近くに居た常連の子達にまで、十分モテてるだろうにこの男はまだモテたいのかと冷たい視線を向けられることになる。




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