二年目の春

「へー、随分進んだな。」

自身が麻帆良に来て一年ということで少し感傷的になっていた横島であるが、それはそれとしてこの日も普通に仕事はしている。

そんなこの日は今年の納涼祭の報告書をあやかが持ってきていた。

納涼祭に関しては夕映やのどかは手伝っているが横島自身は完全にあやかに丸投げしていて本当に何もしてないが、それでも報告書は上がってくる。

まあ最低限の進捗状況程度は知らないと誰か関係者と会った時に恥をかくのは横島なので当然ではあるが。


「ちゃんと読んで下さい。」

相変わらず結構な量の報告書を前に横島はペラペラと流し読みしていくが、興味がないとまでは言わないが本当に流し読みして終わりそうな雰囲気である。


「大丈夫だって、あやかちゃんのこと信じてるし何かあれば責任は取るから。」

あやかは少し困った様子でちゃんと読むように促すも、横島は大丈夫だからと笑って済ませるだけだった。


「本当にこの人は……。」

実のところこれはよくある光景と言ってもいいほど何度かあったことである。

あやかは疲れたようにため息をつくと目の前の人物について改めて考え始めていく。

元々あやかと横島は麻帆良祭まではそれほど親しいとまでは言えない程度の関係でしかなかった。

料理やスイーツに飲み物が美味しいので店には度々訪れていたが、当初の横島個人の印象としては高等部や大学部の男子とさほど変わらない印象しかなかったのだ。


それが変化したのはやはり麻帆良祭からだった。

根本的に2ーAのクラスは個性豊かではあるが纏まりという意味では特にある訳でもなく、担任の高畑がちょくちょく出張で居なくなることからあやかの負担は他のクラスのクラス委員と比べると格段に大きい。

麻帆良祭などその典型で教師以外の誰かが纏めて行かねばならないが、今までそれを行って来たあやかだからこそ今年の麻帆良祭における横島の役割を十二分に理解もしている。

ただそのやり方はあやかとは真逆と言ってもよく衝撃的だったと言っても過言ではない。

一緒にばか騒ぎして脱線しつつも最低限の纏まりを維持して結果的に上手く帳尻を合わせる横島に、元々真面目なあやかは革命的なやり方だとすら感じた。


(ほんと、長所と短所がはっきりしてるんですわよね。)

一方目の前ではいつの間にか木乃香達やタマモが集まって来ていて、横島と一緒に今年の納涼祭について盛り上がり始めている。

あやかはそんな常に人に囲まれてる横島の長所も短所もよく理解していた。

クラスメートは例外として、あやか自身のことを必要以上に雪広家の娘として扱わないのは若い男性では横島くらいだった。

よく言えば大物で悪く言えば空気が読めない馬鹿者とも言える。

あやかはそれらが両方合わさったのが横島なんだろうとずっと思っていた。

あやか自身一番の親友と言っても過言ではない千鶴が、いつの頃からか横島に好意を持ち始めたのもおかしくはないと思ったし、実際に一緒に居て落ち着くような安堵感とドキドキするような刺激の双方がある人間は早々いるものではない。



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