二年目の春

「今日はいい天気だな。」

雛祭りと誕生パーティーが終わった横島はそろそろバレンタインのお返しをどうするかを本格的に悩み始めていたが、この日は気持ちがいいほどのうららかな日和だった。

庭の草木も春の訪れを待ちわびていたのか、新たな命の芽吹きが微かに見られる。


「たかが一年、されど一年ってとこかな。」

そんなこの日だが実は横島が麻帆良に来てちょうど一年になる日であった。

珍しかった西洋風な街並みもすっかり見慣れていて住み慣れた街だと感じる。

僅か一年前までのことを思うと本当に驚くほど穏やかで平和な毎日だった。

無論そんな平和な日々を支えていたのは横島自身ではなく土偶羅や近右衛門達であることは言うまでもないが。

庭ではタマモがすっかり住み着いた猫達と遊んでいるが、横島はこんな環境を守ってやらねばと今日この日に改めて決意していた。



「改めて考えるとよく声をかけたわね。」

「人の出会いなんて分からないものだけどさ。」

一方女子中等部でも少女達が、今日は一年前に横島が麻帆良に来た日だと覚えていたようでその話をしていた。


「うーん、ウチもそう思うわ。」

全ての始まりは木乃香が占いをしていた横島に声をかけたからなのだが、横島をよく知る現在に至っても当時の話を聞くとある意味当時の横島に声をかけた木乃香が凄いという意見は身近な少女達に多い。

当の木乃香自身は別に自分で凄いとは思わないが、やはり不思議な心境にはなるらしい。

実際占いは好きだが、誰彼構わず占い師には声をかけてる訳ではない。


「横島さんはいろいろ有りすぎて正直、未だによく分からないことも多いけどね。」

そして横島と出会ったことで自身の運命が確実に変わっている明日菜だが、彼女は横島に関しては未だによく分からないことが多いと感じていたようである。

まあ彼女のよく分からないという意味では魔法絡みでも同じであり、最近は高畑に自分を預けたという人や自分の本当の両親についても時々考えるようになっていた。

別に実の両親に会いたいとまでは思ってないが、自分が誰の子でどうして高畑に預けられたのかはいつか知りたいとは思う。

ただ高畑や近右衛門の様子を見ていると、何かしらの訳ありなのかもしれないとは当然気付いている。


「まあ人には年齢の数だけ積み重ねた人生がありますからね。 この一年の横島さんを見ていると、過去にも相応の積み重ねがあったでしょうし。」

明日菜の未だによく分からないという言葉に少女達は改めて自分達は横島の過去をほとんど知らないと思うことになるが、この一年であれだけ騒ぎの中心になるような横島なだけに過去にも相応の積み重ねがあったのだろうと夕映は語る。

実際それを横島があまり語りたがらないのはみんな理解しているし、いつか話してくれるのを待つしか出来ないが。


「ぶっちゃけ過去は気になるけど所詮は過去なのよね。 私はあんまり過去に拘りたくはないわ。」

知らないことや秘密があれば知りたくなるのが人の性というものだが、そんな中で美砂は知らなきゃ知らないでいいのかもしれないとも思っていた。

過去を尊重するなり大切にするのはいいがあまり拘りたくはないと語る彼女であるが、それは若さ故の言葉かもしれない。

まあせっかくなので今日はみんなで横島に占いでもしてもらおうかなどと話ながら少女達は今日この日を過ごしていた。

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