二年目の春

さて三月に入ったこの頃、関西では関東魔法協会の交渉団との東西協力の会議が行われていた。

先月の麻帆良での会議に続き連日関西呪術協会の本部である近衛本家での会議となっていたが、交渉団が泊まっていたのは京都市内のホテルだった。

当初は近衛本家に泊めることを考えていた関西側だが、近衛本家に何日も泊めては関東の人間が息が詰まるだろうとあえて関西呪術協会と無関係なホテルを用意したようである。


「歴史と伝統か。 穂乃香様もさぞ苦労をされたのだろう。」

関東の交渉団にとって関西は敵地というほどの認識はなかったが、それでも諸手をあげて歓迎されるとも思ってなく厄介な相手だとの認識が強い。

交渉団のトップは年配者であり二十年前の経験をしている人物であるが、麻帆良に居た頃の穂乃香と関西で自分達を出迎えた穂乃香の違いに少なからず驚いていた。

元々穂乃香は麻帆良で育った現代的で活発な女性だったが、今回関西で自分達を出迎えた穂乃香は古きよき女性のような奥ゆかしさがあった。

そこだけ見れば穂乃香が成長したとも受け取れるが、この人物には歴史と伝統の関西で穂乃香が苦労をしたようにしか思えなかったようである。


「話に聞いていたよりは友好的でしたね。」

「だが言動には気を付けよう。 関西には二十年前に関東魔法協会との戦いで家族を亡くした者なども多いらしい。 我らが直接したことではないがな。」

ただ全体的に関西側も今回の関東の交渉団の訪問を歓迎もしていて、交渉団の面々は事前に近右衛門や刀子から二十年前の件などで蟠りがある者も多いと聞いていただけにホッとしていた。

現在の関東魔法協会の人間にとってメガロメセンブリアが支配していた旧関東魔法協会は別物のような認識があるが、関西からすれば必ずしもそうでないのだ。


「我らでは無理でも子や孫の代には蟠りが少しでも消えるようにせねばならん。 そうでなければ何のために穂乃香様が関西に行ったか分からないからな。」

交渉団のトップは関東では幹部の一人であり近右衛門に近い人物なため二十年前に穂乃香が関西に行った経緯なども知ってる人物である。

彼は自分達の代では東西の蟠りは消えないと考えてるようで、その先の世代のためにという想いが強いようだ。


「東西の統合ですか。 理想といえば理想ですからね。」

「恐らく学園長や詠春殿は木乃香お嬢様が成人するまでに東西の統合に道筋をつけたいのだろう。 木乃香お嬢様がどちらの魔法協会にも属さぬのには理由があるのだろうしな。 現実問題として東西は学園長が健在なうちに道筋をつけなければ向こう百年は無理だろう。」

近右衛門や詠春の狙いが東西の統合であることは交渉団でもトップと腹心の部下の二人しか知らないことだが、彼らは近右衛門や詠春の思惑をある程度推測出来ている。


「では木乃香お嬢様が統合した魔法協会のトップに?」

「それは私にもわからん。 本人のやる気とその時の状況にもよるからな。 ただ東西を統合するにはそれが一番収まりがいいのは確かだ。 東からは雪広家や那波家に西からは近衛本家や神鳴流の青山家が木乃香お嬢様を支えればそれなりにやっていけるはずだ。」

彼らのような東西の統合を目指してることを知る者の中では、木乃香が統合された魔法協会を継ぐのだろうと思ってる者が多い。

実際には名前だけ統合しても東西の派閥が残るのは火を見るより明らかだが、木乃香が継げば少なくとも近衛家に近い者達は東西双方纏まる可能性があった。

実は横島が魔法協会に属さずに近衛家が私的に雇った形になったことも、そんな将来的な木乃香の魔法協会トップ就任の為の布石だとの噂が関東には幹部クラスなどで囁かれている。

加えて近右衛門がエヴァと関係改善していて木乃香がそんなエヴァとも少なからず交流があることなども幹部クラスでは知られて、一部の幹部などは近右衛門が万が一の際には木乃香を魔法協会に利用されない為に横島やエヴァに小飼いの刀子や高畑を木乃香に付けているとも見られていたが。


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