二年目の春

「高畑君の様子はどうじゃ?」

「悪くはないがやはりセンスがない。 本人は努力でカバーしようとしてるがな。」

同じ頃近右衛門は珍しくエヴァと囲碁を打っていたが、横島が高畑の呪文の詠唱を出来るようにしたその後の高畑の様子を近右衛門は気にかけていた。

別に強くなるのは構わないが、中途半端に魔法の力に夢中になるのではと危惧もしている。


「センスか。 そればっかりはのう。」

「本人も理解はしているがタカミチはナギやガトウへの憧れが強すぎる。 それがタカミチの枷となってるのだ。」

近右衛門に高畑の現状を聞かれたエヴァはセンスがないという言い方をしたが、高畑は魔法の才能も実はそれなりにあって修行の成果も出ているが以前高畑本人にも言った通り高畑には闘い自体に対するセンスがなかった。

確かに魔法は高畑の闘いに対する選択肢を増やしたが現状では普通に戦うだけならば中途半端で使いどころとなく、そして高畑には増やした選択肢を活用するセンスもないのだ。


「いっそ横島のような男と戦わせてみた方がいいかもしれん。 私ではダメなのだ。 タカミチをナギの呪縛から解放するにはな。」

度重なる修行と実戦で人間としては最強クラスに近い高畑がより高いレベルに上がる為には、高畑自身が戦いにおいても赤き翼やナギへの憧れという呪縛から解放されなければならないとエヴァは語る。

そしてそれを成せるのは同じ赤き翼の詠春ではなく、全く異質の存在である横島のような男との戦いが必要だとエヴァは考えてるようであった。


「横島君か。 そもそも彼はどの程度の実力があるんじゃ?」

「タカミチや葛葉刀子ではまず勝てないだろう。 それ以上は私にも分からん。 推測を言うなら私やナギをも越える気はするが。」

エヴァから高畑の対戦相手に横島の名前が出たことに少し驚く近右衛門は率直に横島の強さを尋ねてみるも、その答えには思わず手にしていた碁石を落とすほどの驚きを感じていた。

無論近右衛門も横島が弱いとは思ってないが、エヴァが自ら自身を越えるかもしれないとまで言うとは流石に思わなかったらしい。


「考えてもみろ。 根本的な問題としてあの男は最初はどうやってアシュタロスと関わったのだ? 普通に考えるなら最初は敵対したと見る方が自然だろう。 そう考えると異空間に一つの世界を創造するような存在を相手に生き残る力は最低限あるのだろう。 タカミチが勝てるレベルではない。」

あくまでも推測だと前置きをした上で語るエヴァであるが、彼女は横島がアシュタロスと少なくとも一度は敵対したのだろうと語る。

実際にアシュタロスとどうなったのかは分からないが、少なくとも世界を創造する存在を相手に生き残った実力はあるのだろうと見ているようであった。

まあすべてはエヴァの推測でしかないが横島の過去の言動や立ち振舞いから考えても、それほど検討外れではないとの確信があるようだ。


「それほどの力を持ちながらも力での解決を望まぬとは……。」

一方近右衛門が横島の実力をいまいち見極められなかったのは、実力云々よりもそれ以外の言動や価値観や行動が原因にある。

基本的に力で対抗しようとかせずに力を行使しないような搦め手の手段を好む横島が、正直エヴァを越える力があるとは思えなかったのだろう。

そもそも横島の価値観は美神事務所の頃と変わらないので横島の価値観や行動から強さを計るのは無理なのだ。

近右衛門は高畑のことを横島に頼むべきかしばし悩むことになる。




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