二年目の春

一方さよはこの日が自分の誕生日だということを横島から以前に聞いて知ってはいた。

ただ相変わらず古い記憶は思い出せない上に、幽霊である自分には誕生日なんて関係ないと意外と冷静に受けとめている。

正直あまりに人間と変わらぬ生活に自分でも幽霊であることを時々忘れそうになるが、それでも忘れてはいけないと自分を戒めてもいた。


「さよちゃんは誕生日パーティーのこと気付いてないっぽいね。」

「一応円にも秘密にしてるんはずなんだけど?」

「分かるじゃん。 タマちゃんだもん。」

そしてもう一人の誕生日である円であるが、彼女はやはり今日自分とさよを祝ってくれると気づいている。

美砂は一応とつけたものの円にも秘密なんだけどと困ったような笑みを見せるも、普通は気付くよねと思っていた。

尤もさよが気づけない一因には円はさよの誕生日を知ってるが、さよは円の誕生日を知らないという事情もある。

実のところ中学生にもなるとクラスメートというだけではお互いの誕生日を知らなく、円自身も以前は美砂と桜子くらいしか知らなかった。

円が今回さよの誕生日を知ったのはさよが幽霊だとカミングアウトした時に生まれた生年月日を聞いたからである。


「ちゃんと驚いてあげないとダメよ?」

「大丈夫だって。 それに楽しみにしているのは本当だし。」

タマモとも長い付き合いになったこともあり円はタマモが誕生日を祝ってあげることに燃えてるのを理解していた。

元々円の家も普通の一般家庭であり小学生の頃も友人を集めて家で誕生日パーティーをしたことなどないので、普通に友人達に誕生日をパーティーで祝って貰うのは初めてである。

夕映や千鶴も嬉しそうだったし円自身も楽しみにしている。


「私さ、マスターに男性として興味はあんまりないんだけど今のマスターとかみんなとかの関係とか雰囲気は好きなんだよね。 友達以上家族未満? なんか説明は難しいんだけど。」

相変わらず横島に異性として興味はほとんどない円であるが、今までには語らなかった横島との関係や横島を含めた周囲の現状について自身の気持ちをなんとなく語り始めた。

ある意味横島を一番冷静に見ている円であるが、彼女自身も別に友人との付き合いだけで現状の横島達に関わってる訳ではない。

現状の横島を中心にした木乃香達やあやか達との関係は友人以上家族未満のような印象であり、親元を離れて暮らす円にとってもそれは心地よく好きだった。


「うーん、改めて考えると説明するのって難しい関係よね。 確かに。」

すっかり横島達に深入りしてしまった美砂達であるが、元々は好意や友情や打算など様々なモノが入り雑じった関係である。

ただ現状で一つ言えることは誰もが自然体で一緒に居ることが出来る関係だと言えるだろう。

横島にしても円のような純粋な横島への好意があまりない者に対しても平等に接するので、円なんかは横島に好意がある友人達と一緒にその輪に加わって居られるということもあった。


「私も彼氏とか欲しいけど、出来ればマスターとかみんなと上手くやってくれる人がいいわ。 一緒に騒げるのってかなり重要かも。」

そんな円だが彼女もまた年頃なので恋人が欲しいが、恋人の条件の中には現状の横島達との関係に上手く加わってくれる人が理想らしい。

まあ実際にはいろいろ秘密があるのでそう簡単にはいかないのだろうとは思うが、少なくとも今の関係を理解してくれる人でなければ付き合うのはムリかなとも思うようであった。



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