二年目の春

同じ日、あやかの父である雪広政樹と千鶴の父である那波衛は土偶羅の分体こと芦優太郎と三人は休日を利用して話し合いをしていた。

主要議題は魔法協会の財政と土偶羅が提案した技術研究部門の拡充に関してであるが、他にもこの先の魔法世界絡みの難題に対してもいろいろ意見交換することになったのだ。

まあ二人は横島とも定期的に会って意見を交わしているが、横島では具体的な話をほとんど出来ないので土偶羅との話し合いも必要であった。


「それにしても、聞けば聞くほど気が重くなるね。」

「世界の危機なんて映画の中だけにして欲しいよな。」

結局のところ現状の問題は魔法世界の限界に全ては通じるが、日本を代表するような大企業のトップである二人をもってしてもそれは勘弁して欲しいというのが本音のようである。

そもそも企業のトップには相応の責任もあるので、魔法世界絡みの問題においそれと手を出せるような立場でもない。

下手に手を出せば火傷では済まされないのは明らかであり、話を聞けば聞くほど現状の土偶羅の方針が無難なのを理解してしまう。


「致し方ないのかな。 直接関わるのは避けたいし。」

「だがやり方には一考の余地があるだろう。 既存の魔法協会を無闇に拡大するよりは魔法協会と僕ら支援企業の共同出資による別組織にするという手もある。 名目上は研究機関にでもすればいい。」

ただ魔法協会の組織の拡充については二人も一考の余地があると考えていて、現状の魔法協会を急速に拡充するよりは魔法協会と支援企業の管理下の別組織がいいのではと口にする。

これに関してはいろいろ詰めの議論が必要であるが、要は技術者の確保と育成が目的ならば魔法協会から切り離すという手も悪くはなかった。

魔法協会を直接拡充すると財政問題や諸外国やその魔法協会への影響など慎重に考えねばならないが、別組織にして名目上は雪広や那波による研究機関にでもすればそれなりには言い訳にはなるはずである。


「別組織にするのは構わないが、初期資金がかかるぞ。 無論調達は容易いが。」

一方の土偶羅も別組織の案はすでに検討してた。

難点としては初期投資の資金が必要なことと組織を任せる人材などそれなりに手間と金がかかることだ。

ただまあ魔法協会の組織をあまり急速に拡充して外部に警戒心を抱かせるよりは、雪広や那波の管理下にして技術研究の別組織にした方がまだ対外的にはいいだろうという考えは無いわけではなかった。

実際問題、現状でも雪広家には魔法研究をさせている部署が本社内に密かに存在する。

これに関しては元々はメガロメセンブリア管理下の関東魔法協会に協力していた時代の名残で、古くは戦前から雪広家では密かに魔法の研究をさせていたのだ。

まあ実のところ魔法の研究を密かに行う企業は世界を見るとさほど珍しくはない。

知ってる人は知ってるのが魔法というものであり規模の大小はあるだろうが、世界的に名の知れた企業なんかでは知ってることが多く情報収集や研究も当然してるところはあった。


「それじゃ、学園長先生にも話して魔法協会の直接拡充と別組織の両方を検討することにしようか。」

その後も話し合いは続くが、最終的に三人は土偶羅が最初に提案した魔法協会の拡充と今回の別組織の案を両方検討していくことで纏まる。

やはり今後の魔法世界を考えると優秀な人材の確保は必要不可欠なことは確かなのだ。

後は権力や組織のバランスなど細々としたことを調整するしかなかった。



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