さてテストが終わると二月は終わりを迎えることになるが、二月最後の二十八日には翌日の麻帆良亭の営業の為に仕込みをする為に坂本夫妻と弟子の藤井が店を訪れていた。

この日は平日の金曜なので日中は店内で騒ぐ学生も居なく、普通に喫茶店としての客とスイーツの持ち帰り販売をしている。

相変わらず店の主力はスイーツの持ち帰り販売であるが、平日の日中は主婦や中高年の客もそれなりに来ている。

店主である横島が学生と一緒に騒ぐほどの店なので主婦や中高年なんかも店内で友人達と気楽におしゃべりをしたりと、何処かファミレスのようでもあるが。


「平日の日中は一人ですか。 大変ですね。」

「わたしもいるよ。」

「ああ、ごめんごめん。 いや広い店内で料理をするのが横島君一人だと思ったから。」

この日は坂本夫妻の妻が厨房を借りるからと少し手伝ってくれていて結構楽だったが、弟子の藤井はいつもは横島一人なんだと知ると少し驚いた様子で声をかけていた。

ただ藤井の一人でという言葉に自分が入ってないと感じたタマモがすぐに自分も居るとアピールすると、藤井は申し訳なさそうにタマモをなだめる。

実際タマモは毎日お手伝いをしてるし横島も結構あてにしているが、よく知らない人が端から見たら店の戦力として考えるには幼すぎた。


「うちのお客さんは急がない人がほとんどっすからね。」

現状で平日の日中の客はほとんどが横島一人で営業している店だと知って来ているので営業出来ては居るが、実のところ平日の日中もそろそろ人手が欲しい頃ではある。

タマモは注文を聞いたり水や飲み物を運んだりはするが流石にそれ以上重いと運べないし、金勘定も出来るわけがないのだから。

調理に関しても朝と昼の時間は横島は鍋やフライパンを複数使いながら更に会計や接客も同時平行で進めているので、普通の人間ならば職人技と呼ばれる域に達していたりする。

ただまあ横島がそれでも人を雇わないのはいろいろ秘密を抱えるが故に安易に人を雇えないのと、木乃香達に配慮というか遠慮してる為でもあった。

現状を客観的に見ると横島の腕前の割に店が平日の日中はあまり繁盛しない理由は、混雑時は料理を出すのが遅いなどの理由があるからでもある。

結果として店内での飲食よりスイーツの持ち帰り販売がよく売れていた。

まあ店の営業に関しては一番重要なのは横島自身がそもそも人を増やしてまで稼ぎたいと思ってなく、下手に人を増やして更に店が混雑するのが嫌だという本音もかなりある。

元々横島の理想は少し暇なくらいの店で居眠りでもしながら営業することであり、人気店として繁盛させるのは全く望んでない。

まさか忙しいのが嫌なのでとも言えないので適度に客が減る現状を変える気はなかった。


「世の中には凄い人が居るんですね。 先生。」

「あれが横島君の長所でもあり欠点でもあるんだよ。」

ちなみに藤井は前回木乃香の存在によりあまり目立たなかった横島が普通でないことに、この日初めて気付くことになる。

明るく楽しく料理をしながらも自分の味というものを持っているし、店の営業では近所の主婦や中高年の愚痴を聞いたかと思えば占いがよく当たると評判だと知ると藤井は最早驚きの言葉も出なかった。

ただ美味しい物を作ることだけを考え店を持った現在も働いてる藤井からすると、横島の店は驚きの連続だったことは確かだろう。

まして料理の腕前が自分よりも高いとなると立場がないなと苦笑いすら出てしまっていた。