平和な日常~冬~6

その後木乃香達が学校に行くと学生の客は大学生以上のみになるので、いつもよりは多少忙しいが横島とタマモでなんとか営業出来ていた。

ただそんな忙しさも午前十時を過ぎると一段落していて、横島とタマモはホッと一息つく。


「女の子のパワーって凄いな。」

かつて横島にとってバレンタインは誰にも必要とされない自分の価値を再認識する日でしかなかったが、木乃香達以外からもかなりチョコを貰ったことで住む場所どころか住む世界が変わるとこうも変わるものかと驚いている。

それにバレンタインにおける女の子の悩みや苦労を理解したのは、はっきり言って今回が初めてだった。

昔から当然のようにバレンタインにチョコを大量に貰う友人や知人を前にどれだけ悔し涙を飲んだか分からないが、こうして立場が変わるとそりゃ女の子もあげる相手は選ぶよなと割りと冷静になれるから自分でも不思議な心境になる。

今回横島は何十人もの女子中高生のバレンタインに関する相談を受けたが、義理はともかく本命はみんな真剣であり確かな想いの元で悩んでいた。

バレンタインにチョコをあげるような勇気や行動力は間違っても昔の横島にはないものであり、逃げてふて腐れて開き直っていた自分がモテなかったのは当然かなと思う。


「明日菜ちゃん上手く渡せるといいけど。」

いつも店で一緒に騒いでいた常連の少女達が今年のバレンタインで幸せになれることを願いつつ、横島は身近な少女で唯一バレンタインにチョコをあげる相手がいる明日菜のことを気にかけていた。

明日菜の高畑への想いは恋愛というよりは親愛や家族愛に近いこと、実は横島は気付いている。

普段は気付かぬふりをしていたが、流石に自分が絡まないと横島は冷静な判断が出来るらしい。

ただ横島はそれでも明日菜の中に高畑に対する恋愛の感情もあるとは見ていた。

今はまだそれが恋や愛になることはないが、今は家族として大切な人として明日菜が高畑に無事にチョコを渡せればいいと思う。


「それにしてもタマモが木乃香ちゃんのとこでチョコを作っていたとは気付かなかったな。」

「びっくりさせたいから、さよちゃんとはにわへいといっしょにないしょにしてたんだよ!」

一方タマモはさっそく常連から貰ったチョコを午前のおやつ代わりに食べていた。

横島へのサプライズも成功したからかご機嫌なタマモは、横が気付かなかったと言うと嬉しそうに胸を張る。

そんなタマモの姿に横島は、いつの日かタマモや木乃香達も好きな人が出来てその人に本命のチョコをあげるのかと思うと嫉妬しそうな自分に苦笑いが出そうだった。

ただもし相手が悪い男だったら密かにぶっ飛ばしてやるかと割りと本気で考えてしまう辺り、横島もあまり成長してなかったが。


「ホワイトデーのお返しどうすっか。」

そのまま横島は木乃香達のことからホワイトデーのお返しをどうするかと考え始めるが、他の義理チョコとは違い木乃香達は義理でも真剣なためホワイトデーに何を返すかで悩み始める。

普通に考えればクッキーやキャンディが定番ではあるが、お菓子やスイーツでは日頃から作ってあげているので新鮮味が全くない。

やはり何か特別感がある物がいいが、どうせもう異空間アジトにも連れて行ったのでお金をあまり使わずにとか考える必要はないかなと思う。

何か木乃香達がビックリするようなお返しはないものかと考えていく横島だが、その思考は何故かタマモやさよと同じだった。




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