平和な日常~冬~6

「……ありがとう。」

その後木乃香達とさよとタマモは開店直前に横島にバレンタインチョコをあげるが、横島が少し予想外だったのはタマモまでが用意していたこととだろう。

横島はタマモがバレンタインの件であまり興味を示さなかったことからまさか用意していたとは思わなかったようだ。


「ウチとアスナとさよちゃんとタマちゃんは一緒に作ったんやで。」

「私とのどかも一緒に作りました。 木乃香ほど上手くはないですが。」

実はタマモとさよに関しては手作りのチョコをあげたいと昨日の放課後に女子寮の木乃香達の部屋で一緒に作っていた。

木乃香達はバイトの日でなかったことから部活があるとの理由でタマモはエヴァの家に遊びに行くとの理由で女子寮に集まって作ったらしく、夕映とのどかも手作りだがこちらは別口で昨日の夜に二人で作ったらしい。


「気を使わせたみたいで悪かったな。 でも嬉しいよ。」

木乃香達一人一人から綺麗にラッピングされたチョコを貰う横島であるが、その表情は本当にホッとして嬉しそうである。

流石に多分貰えるだろうとは思っていたものの、横島自身がバレンタインに否定的だったことを言ってもいたので貰えないかもしれないと不安はあったようだ。


「俺がこんなにたくさん貰える日が来るとはな。 昔の俺が知ったら血の涙を流して喜ぶかもしれん。」

「そんな大袈裟な……。」

「いや、これで気持ちよく仕事が出来るよ。」

チョコを横島に手渡す側で平常心に近かったのは木乃香とさよとタマモであった。

木乃香は横島と噂になったりしたことが多いので慣れてるのだろうし、さよとタマモは異性としての意識よりサプライズのプレゼントを渡せることが嬉しいようである。

残る明日菜と夕映とのどかに関してはどうしても異性として意識してしまうのか、照れくさそうだったり恥ずかしそうだったりして横島と目を合わせられないでいた。

別に告白する訳ではないが三人共に家族や家族同然の相手以外の年頃の異性にチョコを渡すのが初めてらしく、意識するなという方が無理なのだろう。


「本当にありがとうな。」

木乃香達の反応は様々だが、それが義理であろうとも想いが詰まったチョコであることを横島は感じる。

ラッピングからして一つ一つ違うチョコを横島は手に取り、木乃香達の想いが嬉しくてつい目頭が熱くなってしまう。

かつて横島が貰ったまともなチョコはバレンタインの意味を理解してなかった頃からおキヌがくれていた物くらいであり、義理というか同情チョコのような誤解した印象を横島は持っていたりするが。

ただ今の横島は感性や感覚が人間離れしているので木乃香達が真剣なのは十分伝わっている。

自分は木乃香達に助けられてばかりなのにここまで真剣に考えチョコをくれたことに、横島の涙腺は早くも崩壊寸前だった。


「もう、そこまで大袈裟にしなくてもいいですよ。 こっちが恥ずかしくなりそうです。」

そんなチョコを両手に抱え今にも泣き出しそうなほど嬉しそうな横島に、明日菜はたまらず大袈裟だと照れたように呟く。

ここ最近は発作のようにバレンタインで落ち込んだり黒くなる横島に木乃香達も明日菜も心配していたが、それでも泣き出しそうなほど大袈裟に喜ばれるとまた対応に困る。

ただまあ横島をここまで支えてきたのは自分達だとの自負がある木乃香達なだけに、ある意味横島との絆を再確認出来たようで彼女達もホッとしていた。


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