平和な日常~冬~6

さてその日の朝は久しぶりに忙しかった。

通常のスイーツと料理の仕込みにバレンタイン用のガトーショコラを作らねばならないので当然だが


「あれ? このチョコレートって……。」

木乃香達に関しては結局手伝いに来ることにしたらしく、明日菜が新聞配達を終えて寮に戻ると木乃香と夕映とのどかを起こして手伝いに来ていた。

最早慣れたもので仕込みや開店準備にバレンタイン用のラッピングをしていくなど、それぞれが自分で仕事を見付けて働いていく木乃香達であるが冷蔵庫をあけた木乃香は中に見慣れぬラッピングのバレンタインチョコを見つける。


「それさっき茶々丸ちゃんがくれたんだ。」

まさかこんな早朝からチョコを渡しに来る人が居たことに驚く木乃香であるが、それ以上に今日の横島は機嫌がいいことに気づく。

まあ昨日までも決して機嫌が悪かった訳ではないが、バレンタインに対して発作のように不満をこぼしていたことからも木乃香は今日の機嫌を少し気にしていたのだが。


「茶々丸さんね。 そういえば朝猫達に会いに来てるんだっけ。」

横島が茶々丸にチョコを貰ったという話はすぐに木乃香から明日菜達にも伝わるが、さよとタマモは別にして木乃香も明日菜も夕映ものどかも横島の機嫌がよくて良かったと思うのと同時にほんの少しだけ面白くないとの感情がそれぞれの胸のうちに生まれていた。

何というか別に茶々丸も愛の告白をした訳ではないと理解はするが、自分達以外の第三者のチョコを貰ってあからさまに機嫌がいい横島は見ていてなんとなく面白くない。

ただここで木乃香達が横島を憎めないのは、横島が少し期待した様子で木乃香達を時折見てることだろう。

木乃香達から貰えるか貰えないか気になるようで若干そわそわしたようにも見える。


「どうする?」

「早く渡した方がいいかもしれません。」

予期せぬ伏兵の登場に横島に隠れてこそこそと話を始める木乃香達だが、実は木乃香達はチョコは夕方か夜にでも渡そうかと話して居たのだが茶々丸に先を越されたことで少し焦り始めていた。

このまま自分達があげる前にこの調子で第三者から貰い続ければどうなるのだろうと、そして万が一誰かに告白でもされたら横島はどう答えるのだろうかとリアルに考えてしまう。

仮に異性として一人の男性として横島をどう思っているかと聞かれると相変わらず返答に困るのが木乃香達の現状であるものの、それでも横島に第三者の見知らぬ恋人が出来たらと思うと不安が込み上げてくる。

正直木乃香達はバレンタインでは横島のトラウマが消えるような日にしてやりたいとは考えていたが、第三者が横島に告白するような事態はあんまり考えてない。

まあ夕映とのどかはハルナに以前から時々言われてることなので多少考えていたが、横島が第三者の告白を受けると思えなかった事が大きい。

しかし茶々丸のチョコで機嫌がいい横島を見ていると、本当にそうなのかとの疑問と不安が生まれたのは確かだった。

ぶっちゃけ木乃香達は自分達と横島の関係は変わらないものだといつの間にか思っていたことに気づくが、それには何の確証もないことにも気付いていた。

実際横島本人は特定の恋人を作る気はなく自身が告白されることなんてあり得ないと変な誤解や自信を持っているので木乃香達の考えが間違っている訳ではないが。

ただまあ明日菜は誰にも言われてないが木乃香は母に夕映とのどかはハルナに横島をきちんと捕まえておくように何度も言われているので、迷いや不安が生まれるのは仕方ないことだろう。

幸いバレンタインのチョコは用意してることだし、早めに渡しておいた方がいいと結論づける。
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