平和な日常~冬~6

「お嬢様ばかりかあの子達を纏めて面倒見るなんて、刀子も大変ね。」

この日の夜、刀子は久しぶりにシャークティと麻帆良市内のレストランで食事をしていた。

お互いに忙しく久しぶりの食事となったが、話題は木乃香への魔法開示から始まり刀子が木乃香達十人近くを一人で面倒見てることだった。


「魔法使いにする訳じゃないから、他の子に比べれば手間はかからないわよ。 それに高畑先生とか横島君もいるし。」

「それにしてもねぇ。 で結局そのマスターとの関係は変化なしって。 貧乏くじじゃない?」

関東においては刀子が木乃香の指導者になったことは特に驚きもなく受け止められていたが、木乃香にあやかや千鶴を含めた十人余りの子供に一度に魔法の情報を教え同じく扱っていることは多少話題になっている。

全部木乃香の友人だったこととメンバーがメンバーなので将来の幹部候補かとも話題になるのは当然で、近右衛門はその辺りの噂の火消しは行っているが端から見たら少し珍しいケースであることに変わりはないので噂が消える気配は今のところはない。


「どうなのかしらね。 確かに貧乏くじといえば貧乏くじかもしれないけど。 でも単純に考えて横島君も付き合うならともかく結婚は無理そうなのは前々から分かってたことなのよね。」

時々会って食事をしては要領が悪い刀子に横島のことで発破をかけたりしていたシャークティであるが、結局刀子は変わらずに年が一回りも離れた少女達と同列に近いと知ると何とも言えない表情をする。

若さが武器になる少女達は時間が過ぎれば過ぎるほど有利になるが、刀子は逆で時間が過ぎれば過ぎるほど不利になる。

ただ刀子自身は少し前から横島への想いはシャークティに認めてはいたが、同時に結婚を前提にした関係を築くつもりはないとも公言はしていたのだ。


「私はあんな若い子達に遠慮する必要ないと思うけど。 今の彼の立場が特殊なことも確かなのよね。 だから早く決めなさいって言ったのに。」

友人であるシャークティは麻帆良祭の前から刀子に横島との関係を進展させるようにと何度も言っていたが、現状では横島は近衛家の小飼いという立場になってしまい周りの少女達同様に将来の幹部候補かと噂されていた。

実際木乃香・あやか・千鶴とはかなり親しいので魔法関係者の中には三人の誰と横島が婚約するのかと賭けてる者もまで存在する。

流石にここまでなってしまうと刀子が横島と関係を深めると今度は仕事を捨てる覚悟が必要になる可能性が高い。


「私は現状をそれなりに楽しんでるわ。 先のことがどうなるかは分からないけど。 まあそれもいいかなって。」

シャークティの言葉は二十代も後半に差し掛かった女性ならば当然で刀子にも痛いほど理解できるが、正直なところ今の刀子から焦りが消えたのは老化防止の魔法薬が原因なので流石に友人とはいえその秘密は明かせなかった。

話せば絶対に欲しがることは確実だし、第三者であるシャークティまで使い出せば最終的に魔法薬の秘密が守れなくなるのは明らかである。


「妙に余裕があるわね。 何かあった?」

ただシャークティは友人である刀子が前回会った時にはまだ悩んでいたのを理解しているので、前回と比べて今日は妙に余裕が出てきた刀子に横島との間で何かあったのかと問い掛ける。

実はシャークティは刀子が横島の愛人にでもなるのではと心配していた。

もう引き返せないほど惚れている刀子ならば愛人でもいいからと言い出しかねないことに気付いている。


「なんにもないわよ。 ただ彼とあの子達と一緒に居て楽しいのはあるわ。 多分端から見ると不思議な関係よ。 恋人ではないけど友人でもない。 家族のように暖かく恋人のように刺激がある関係かな?」

横島に関してはいろいろ言えない秘密があるものの、現状では刀子は横島と少女達との関係を素直に楽しんでいた。

ただシャークティからするとそれはなかなか理解出来ないことであり、どう受け止めるべきかしばらく悩むことになる。




21/49ページ
スキ