平和な日常~冬~6

それから数日が過ぎてバレンタインの二日前になると横島の店でもいよいよバレンタイン商品の販売を始めていた。

販売するのは最終的にガトーショコラとなっており、チョコレートの違いから標準とビターの二種類を用意している。

これは日本で一般的にガトーショコラと呼ばれる部類に入るケーキでり、ガトーショコラ自体が元々はフランスの焼き菓子やケーキを意味してるのでガトーショコラと呼んで間違いではない。


「予約だけで三百個を突破してるです。」

「女の子のパワーって凄いな。」

二日前の販売時点でバレンタインの予約が三百を越してるらしく、大半は明日の前日と当日の朝受け取りであるが横島は改めて女の子のパワーに驚かされていた。

ちなみにバレンタインにガトーショコラを選んだ理由については変に奇をてらうことをせずに、王道でいいということに落ち着いたことが理由にある。

横島のスイーツは木乃香の料理大会の影響もあり一般的にケーキが有名であり、客のほとんどが求めるのがチョコレートを用いたケーキだったことが大きい。


「これラッピング大変よね。 十四日は朝早く来た方いいかしら。」

ただ意外に大変だったのがラッピング作業である。

ケーキを一つずつ専用の箱に入れてラッピングしていかねばならないが、日頃からフロアを任されてる夕映や明日菜も本格的なラッピングはあまり経験がない。

お盆の時を筆頭に時々贈答用の菓子を頼まれることがあるので一応ラッピング技術は覚えていたが、流石に百以上ものラッピングをするのは経験がないのだ。

物が物だけにあまり作り置きする訳にもいかないので販売する当日にラッピングしなくてはダメだった。


「朝は大変だろ? なんとかするから無理しなくていいぞ。 学校もあるし。」

「私は新聞配達終わりにそのまま来るんで大丈夫ですよ。」

この日は二日前ということでまだ販売数が多くないので注文を受けてから夕映と明日菜でラッピングしていたが、流石に横島も学校がある平日の朝から手伝わせるのはどうかと思いなんとかすると告げる。

しかし明日菜は新聞配達があるのでどのみち早起きせねばならないのでそのまま手伝いに来るつもりだった。

まあ夕映は起きられるか不安があるらしくしばらく悩んでいたが。


「世の中にはこんなにバレンタインにチョコを上げる人が居るのになぁ。 いっそ間違って砂糖じゃなく塩か唐辛子でも入れてやろうか。 いや、それよりも食べたら異性に毛虫の如く嫌われる魔法薬を原液のまま……。」

「何危ないこと口走ってるんですか!!」

「絶対にダメです。」

「冗談だよ、冗談。」

まだ二日前だと言うのに嬉しそうな女性かま次々とバレンタイン用ケーキを買っていく姿に、横島はやはりなんとなく面白くないのか危ないことを口走るが速攻で明日菜と夕映に絶対にダメだと真剣に釘を刺される。

横島としては当然ながら冗談のつもりだが、食べたら異性に毛虫の如く嫌われる魔法薬なんてのを口にした時点でかなり面白くないのだと明日菜と夕映は気付く。


「そうだ、明日菜ちゃんには惚れ薬入りのチョコ作ってやろう。 俺の惚れ薬なら高畑先生もイチコロだぞ。」

「要りません。 この前ダメだって刀子さん言ってたじゃないですか!」

そのまま冗談でも危ないチョコは作ったらダメだと念を押された横島は、今度は明日菜の為に惚れ薬入りのチョコをと勧めるもこちらも明日菜に即拒否されてしまう。

本来の歴史ではこの数日後にはネギが魔法使いだと知った際に惚れ薬を欲しがるはずだが、すでにここの明日菜は精神的に成長してるので迷いもしなかった。



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