平和な日常~冬~6

「うーん、その人とはあんまり縁がないみたいだなぁ。 でも身近に良縁ありと出てるから気落ちするなよ。」

さて二月入ると横島には占いの客が増えていた。

理由は至極単純で恋人達の聖なるイベントバレンタインデーが近いからである。

正直横島が人前で占いをしていたのは去年の三月の短い期間だけだったが、未だに占いの噂を聞き付けた新しい客が尋ねて来る。

ましてバレンタインデーは女性から告白する一斉一代のイベントであることから、横島の店のメインの客層である女子中高生からの占いの依頼が絶えなかった。


「そうなんだ。」

この日はサッカー部でマネージャーをしている和泉亜子が今年の春に卒業する先輩にバレンタインデーで告白しようか迷っていると占いを頼んで来たので占っている。

片想いの先輩に縁がないと言われた亜子はすぐに落ち込んでしまい、横島は困った表情を見せながらもフォローしていく。


「恋愛は縁が全てじゃないぞ。 縁や運命に逆らってもいい人に巡り会えることだってある。 誰にだってチャンスはあるよ。」

麻帆良に来てからいろいろ経験したがろくに恋愛経験がない自分が、恋愛を占い恋愛の相談にのることは横島自身が未だに不思議で仕方ない。

美砂達なんかには本当は恋愛オンチなのにねと笑われているが、手加減しても的中率の高い占いプラス持ち前の面倒見の良さもあり占いの依頼が一番多いのは恋愛絡みであった。

更に横島の恋愛オンチは女性が苦手だとの噂もあり意外に広まってなく、何故か恋愛経験が豊富だと誤解も受けていたりする。


「ウチはマスターとか木乃香達とは違ってわき役なんです。 スポットライトを浴びて人の中心になるような人やないんですわ。」

あからさまに落ち込む亜子だが困った表情で必死に励ます横島に思わず笑ってしまうと、ふと離れた立場から見る横島や木乃香のことを語り出す。

2ーAのクラスでも亜子は横島と近いメンバーであり、秘密を知るメンバー以外では一番親交があるグループに入る。

だからこそ彼女はこの一年余りで光輝く舞台に躍り出た横島と木乃香達を本当によく見ていた。

それは亜子にとってシンデレラを間近で見続けた心境かもしれない。

比較的有名な木乃香と夕映のみならず明日菜とのどかもこの一年で本当に変わっている。

バカレッドと呼ばれたりしていた明日菜は成績の向上に合わせて精神的にも成長をした結果かつてはケンカばかりしていたあやかとの関係も落ち着いたし、のどかに至ってはクラスでも無口な方だったのに今では横島の店は元より大学部の先輩とも普通に話しているのだ。

しかし自分にはそんなサクセスストーリーは無縁だと亜子は本気で思っている。


「わき役かぁ。 信じて貰えんだろうが俺も似たようなもんだったんだよな。 いっつもイケメンの引き立て役でさ、オチに使われるんだわ。 そいつらが羨ましくてな。 本気で呪ってやろうと何度思ったか。」

「ほんまに?」

「本当だって。 なのに麻帆良だとなんでかモテる扱いされるし。」

横島の身近では誰も信じてないが横島自身は自分が主役だったとは思ってはなく、亜子のような悩みは素直に共感するものがあった。

幼い頃は銀一が主役で高校時代はピートや令子が主役だったと思っている。

亜子は横島の語る話は呪ってとか言うので少し過激だとは思うが同じく共感するものがあるらしく、半信半疑ながら自分もいつか横島のようにスポットライトを浴びれるのかと期待してしまう。


「フラレたのだって何回フラレたか覚えてないほどあるぞ。 でもこうして元気にやってるんだ。 あんまり重く考えんと前向きに考えろよ。」

そのまま横島は過去のフラレた話をさらっと語り亜子を元気付けて占いを終わることになる。



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