平和な日常~冬~5

「沖縄か。 あそこは今もいろいろ大変だからな。」

予期せぬ関西の一人が語った沖縄という言葉に、双方の交渉団の面々は何とも言えない表情をする。

明治以降日本の一部ではあったが元々沖縄は琉球王家が支配する独立国だった。

そして沖縄には古くから魔法というか独自の秘術を受け継ぐ者達は居るが、こちらは沖縄の複雑な歴史同様に苦労の歴史をたどっている。

元々関西でも関東でもない中立地域で近年まではいわゆる魔法関係者の組織化が全く出来てなかった地域だった。

正直なところ元々魔法協会というのはあまり勢力を広げても特に利益になるわけではないので、世界にも日本にも魔法協会の影響が及ばぬ土着の魔法や術の伝わる地域はいくらでもある。

沖縄もその一つで以前は組織化出来てなかった現地の魔法関係者は、その複雑な歴史と同じく苦労していた。

まあ現在では国内の魔法関係者の救済に加えて他国からの介入を避ける意味もあり、関西も関東もそれぞれに支援をしているので沖縄の魔法関係者の苦労もだいぶ減ったが。

地理的な要所である沖縄は現在では特定の周辺国からの工作なども多く魔法協会も他人事ではない。

日本国内に他国の魔法協会の足場など築かれては堪らないので、東西共に暗黙の了解の元で消極的ながら相手の足を引っ張らないことにしている地域である。


「ここ数年のかの国の魔法協会の工作は目に余るものがある。」

「定期的に外に膨張するのはあそこの国の伝統だ。 それにあの国にある魔法協会で現状で曲がりなりにも独自にやっているのは香港だけだ。 後は全て党の支配下だからな。」

「いっそ沖縄を東西協力の先行地域として考えてみますか? お互いに利益を損なう訳ではないですし。」

一つの料理から東西双方の交渉団の面々は現在共に迫るもう一つの驚異に話が移っていく。

隣の大陸国では少し前から外に膨張する政策を露骨に取り始めた影響で、建前では政府と無関係なはずの魔法の分野にて進出する気配を見せていたのだ。

まあ裏社会では元々流れてくる者は多かったが工作員などと共に魔法の分野でも攻勢をかけ始めたのは明らかだった。


「確かにこのままでは良くはないが……。」

日本も表の政財界には随分かの国の影響力が浸透している。

魔法協会は今のところ大丈夫ではあるが、魔法協会に属さぬはぐれ魔法使いなどの中には金やハニートラップなどで流されてる者も結構居る。

国内で争ってる場合ではないのはそんな問題もあって以前から言われていたことなのだ。

本来は魔法使いの互助組織であり闇の妖魔に対抗する為な組織であるはずの魔法協会もまた、世界情勢や表の政治と完全に無関係とはいかない。

財界や裏社会に加えて魔法社会なども当然ながら他国からの攻勢を受けることはある。

仮にそれを非難したところで世の中に秘密にされてる分野なだけに正論を吐いても無意味なのだ。

元々魔法協会は国家の枠組みに必ずしも捕らわれないだけに付け入る隙を与えた方が悪いとなってしまう。

最終的に近右衛門が彼らの話に直接口出ししなかったこともあり東西双方の交渉団は当初の予定にはないが、とりあえず自分達からの提案として私案を多く幾つか纏めることで話が進む。


ちなみに刀子は表向きニコニコと食事をしていたが、あまりにデリケートな話に早く帰りたいと心のなかで叫ぶことになるが叶うことはない。

そもそも剣士としての修行しかしてない刀子に東西の駆け引きに加えて他国の魔法協会との関わりまで考えるのは無理であった。

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