平和な日常~冬~5

さて恥ずかしげに照れるというレアな千鶴を見た一同であるが、さっそく誕生パーティを始めることになる。

日頃からあれこれと理由を付けて騒ぐことが多い横島だが、やはり誕生日は特別だとの認識からかこの日も普段は見ないようなごちそうが並ぶ。


「しゃぶしゃぶは久しぶりね。」

「いい肉だからな。 塩で食うのも美味いぞ。」

しゃぶしゃぶ自体は大分前に横島が作ったのを食べた経験があるものの、今回は肉の質が違うのが一目瞭然だった。

もちろん付けて食べるタレも手作りでありポン酢やゴマだれは当然ながら、ハーブ塩やピリ辛のタレなんかも用意している。

今回の横島のお薦めはハーブ塩らしく、だし汁で肉にほんのりと熱を加えてアッサリとしたハーブ塩を少し付けて食べると肉の旨味がそのままダイレクトに味わえる代物だった。

見事なさしの入った肉は本当にすぐに熱が入るので肉の旨味と脂の甘さを、だし汁とハーブ塩が邪魔をしない程度の味付けとなって本当に美味い。

それこそ一枚の肉でお茶碗一杯のご飯が余裕で食べられるほどだろう。


「このおだし、どこか普通と違うような。」

「よく分かりましたね。 実はちょっと魔法料理の技術も加えてるんっすよ。」

そして横島流しゃぶしゃぶの最大の秘密に最初に気付いたのは雪広家の長女さやかであった。

流石にお嬢様の中のお嬢様らしく味覚もかなり繊細で鋭いらしい。


「魔法料理というものがあるのですか。」

「完全な魔法料理じゃないっすよ。 素材の味を引き出すのに魔法料理の技術を一部使ってるだけで。 本来の魔法料理は素材の力を引き出してそれを食べることで人の身体にその効果を吸収しやすいように手助けするんですけど、これは素材の味を少し引き出してるだけですから。」

魔法料理という言葉にどうやら魔法料理を知らなかったさやかと那波家の面々は驚きながらも料理味わうが、実は今回のしゃぶしゃぶは横島独自に考えた魔法料理の応用ともあえて未完成にした魔法料理とも言える代物だった。

以前エヴァにも言われたが魔法料理はその完成度の高さから魔力を含んでいたりして、一般人にですら普通ではないと気づかれる可能性すらある。

あれ以来横島も自分なりに魔法料理についていろいろ考えていたのだが、別に素材の力を吸収する手助けまでしなくてもいいんじゃないかと考えた結果なのだ。

素材の力を引き出す魔法に関しても効果をかなり落としていて、よほど注意深く見極めないと感じない程度の効果しかない。

悪く言えば魔法料理の完成度を落としただけとも言えるが、これに関しては元々魔法料理に対する横島と魔鈴の考え方の違いが大きいだろう。

魔法料理を産み出した魔鈴はいかに無駄なく素材を生かして人々の役に立てようと考えたが、横島は人々の役に立てようなどと考えないので逆に無駄なくらいがちょうどいいとすら考えたようだ。


「本当に好きなことは熱心なんですよね。 横島さんは。」

一方夕映は魔法が解禁された自分達の一番の利益は、横島の本当の料理を食べられることかもしれないとふと思う。

まあ今のところ役に立つ魔法が横島の魔法料理しか知らないことも大きいが、元々欲望に忠実な横島は性的欲求を抑えているからか完全な食道楽になっている。

よく男は胃袋を掴めばいいなどと聞くが、自分達は逆に横島に胃袋を掴まれてるのかもしれないと思うと笑ってしまいそうになる。

無自覚のようだが横島は案外独占欲が強いのかもしれないなと感じた夕映は、横島もやはり人の子なのだとしみじみと感じていた。
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