平和な日常~冬~5

一方の横島はこの日はタマモが明日菜の看病で二階に居るため一人で店を営業していた。

常連の客にはタマモの姿が見えないことでインフルエンザかと心配する者も多く横島は看病の方だとその都度教えなければならなかった。

加えて中にはタマモが感染しないかと心配する者も居て、そちらに対しては予防接種をしていると誤魔化していたが。



「今日はまた豪華ですね。」

「本当だね。」

さてそんなこの日だが横島は朝から店の営業の合間に料理の仕込みをしつつ、夕方になるといつもより気合いを入れて夕食の支度に取り掛かっている。

見事なまでの霜降り肉から始まり二十種類ほどの新鮮な魚介が並ぶ厨房に、夕映とのどかは少々やりすぎではと思う。


「誕生日くらいは豪華にしないとな。」

実はこの日は千鶴の14歳の誕生日であり、昨年の夕映に続きみんなでお祝いしようと本人に内緒で進めていた。

年始の異空間アジト訪問以降はあやか・千鶴・夏美の三人もほとんど毎日夕食を共にしていて、今日もあやかと夏美が連れてくる予定になっている。


「ああ、千鶴ちゃんの家族も呼んだんだ。 やっぱり誕生日は家族と一緒がいいからな。」

ただ横島は夕映達には言ってなかったが、千鶴の家族である那波家の人もこっそり呼んでるらしい。


「那波会長や社長はお忙しいと聞きますが来れるのですか?」

「喜んで来るって言ってたぞ。」

本人的には敬意は払ってるつもりであるものの端から見ると相変わらず友達感覚でお偉いさんに接する横島に、夕映とのどかは大丈夫かと少し心配そうであるがまあいつものことである。

雪広家同様に那波家も忙しい面々であるが、娘や孫の誕生日はそちらを優先させるらしい。


「一番難しいのはプレゼントなんだよなぁ。 夕映ちゃんの時もそうだけど今回も本当に悩んだよ。」

基本的に料理のメニューは考えるのが割りと楽な横島が、今回も頭を悩ませたのはやはりプレゼントらしい。

料理は好きな物を中心に考えればいいから楽なのだが、女性の気持ちを全く理解できない横島にとってはある意味世界を救うより難しい悩みとも言える。


「頂いたコートは本当に着心地が良くて重宝してるですよ。」

ちなみに夕映は横島から誕生日プレゼントで貰ったコートをこの冬は毎日着ていた。

オーダーメイドのコートなど初めてであったが、正直驚くほど着心地が良くてお気に入りであった。


「欲しい服があればハニワ兵に頼めばいいよ。 あいつ毎日楽しそうに服を作ってるしさ。 あいつ本職は輸送関係のはずなのに完全に服作りの方が向いてるからな。」

「あのハニワさんって、どこか横島さんに似てますよね。」

自分がプレゼントした服を毎日着てくれることに横島は本当に嬉しそうであり、製作者のハニワ兵の話をしながら思わず笑みをこぼしている。

のどかはふとそんな横島を見ていて、横島とあのハニワ兵はなんとなく似ていると常々思っていたことを口にした。

なんというか好きなことに熱中するハニワ兵を見ていると横島に似てると感じるらしい。

実は魔法や横島の素性を明かしたことでそれ以前と一番生活環境が変わったのは、他ならぬ横島宅のハニワ兵なのだ。

先日の女子会もどきのように美砂達とファッションについてよく話すようになったし、他にも木乃香達ともいろいろ話したり交流するようになっている。

まあ横島とすれば似ている実感はないようであるが、少女達とハニワ兵が一緒に楽しげにしている姿は嬉しいものであり細かいことは気にしてなかった。
84/100ページ
スキ