その後夕食が終わると次回以降の営業について話し合いを始めるが、基本的には月一回で土日を中心に日程を調整することで決まる。

この日程に関しては木乃香達の都合という面が大きく、今回の美砂達や前回の千鶴と夏美のように助っ人の確保も基本土日ならば簡単だからでもあるが。


「気を使わせてしまったようで、本当に申し訳ありません。」

「これも何かの廻り合わせっすよ。 気にせんで下さい。」

最後にこの日の報酬を渡して終わりになるが、坂本夫妻に続き報酬を渡された藤井は一度は断ってから申し訳なさそうに受け取っている。

元々坂本夫妻を手伝いたいとの想いだけで勝手に押し掛けて来たので、正直藤井はタダ働きのつもりであった。

まあ遠くから来ているので交通費なんかを考えると助かるのが本音なのだろうが。


「廻り合わせってより、実はマスターの場合は考えてるようで考えてないだけなのよね。」

「こらそこ、余計なこと暴露すんな！ 俺の爽やかでいい人なイメージが崩れるだろうが。」

「だから何度も言うけどマスターにそんなイメージある人居ないって。」

一方の横島はと言えば藤井に対して結構好意的だった。

坂本夫妻と藤井の関係は師弟のようでありながらも親子のようでもあり、基本的に対人運がいいとは言えなかった横島としては羨ましくなるのが本音なのだろう。

尤も正直なところ横島自身が人と人との繋がりを大切にするようになったのは麻帆良に来てからなので、自業自得な面も過去には多々あったが。

そんな横島は廻り合わせという言葉で申し訳なさそうな藤井とこの場を流そうとするも、当然ながら美砂と円にツッコミを入れられてしまいみんな爆笑してしまう。

ぶっちゃけちょっとカッコつけようとした横島にいつもと同じ調子でツッコミを入れただけであるが、藤井はそんな横島と少女達とそれを微笑ましげに見つめる坂本夫妻をただただ眺めているしか出来なかった。



「先生が何故再び麻帆良亭を復活させたのか、やっと分かった気がします。」

そのまま坂本夫妻と藤井は帰ることになるが、藤井は駅までの道を歩きながらポツリと本音を溢していた。


「私達が麻帆良亭を終わらせたことは今でも間違っていたとは思わないが、それは麻帆良亭が私達の手を離れただけなのかもしれないとあの子達に会ってから思うようになったな。」

真冬の夜の冷たい風に冬の寒さを感じながら、過度な看板やネオンのない麻帆良の景色に藤井は麻帆良亭で働いていた頃を思い出してしまう。

あの店が第三者の手に渡り、かつての持ち主だった坂本夫妻と共に店を後にする日が来ることになるとは思いもしなかった。

ただ藤井は何が坂本夫妻を変えたのかという、ずっと気になっていた謎が一つ溶けたような気がする。


「この先いつまで続けられるかは分からないが、今しばらくは続けようと思う。 お前も来るのはいいが自分の店を疎かにはするなよ。」

東京に戻った坂本夫妻と藤井は駅でそれぞれの自宅に帰る為に別れることになるが、別れ際に坂本夫妻は藤井に対して次回以降の件を口にしていた。

実は帰り際に夕映が藤井に対して連絡先を尋ねていて、次回以降は日程を調整する段階で連絡すると告げていたのだ。

どうせ放っておいても来るんだから事前に連絡することにしたようだが、坂本夫妻はそれを受けて今後も藤井が来ることを正式に認めることにしたようである。


「はい！」

元々坂本夫妻は藤井に対して独立したからには自分達のことよりも自分の店を最優先にしろと何度も言って来たようであるが、何度言っても無駄だと分かり流石に折れたようであった。

嬉しそうに笑顔を見せて別れていく弟子を夫妻はため息まじりの笑顔で見送ることになる。