平和な日常~冬~5

さて結局この日はオーダーストップの午後七時まで客足が途絶えることはなかった。

最終的に最後の客が帰ったのが七時四十五分くらいで、一日の売り上げとしては木乃香の料理大会優勝があった体育祭後に匹敵するほどである。

閉店後この日働いてくれた木乃香達と美砂達と一緒に夕食にするが、流石に美砂達なんかは働くのに慣れてないので少しお疲れの様子であった。


「疲れたよ~。 マスター、マッサージして!」

「そうだな。 帰る前に少ししてやるか?」

夕食はもちろん麻帆良亭の料理であり、特製ドミグラスソース なんかは朝のうちに手伝ってくれたみんなに振る舞うようにと別にしておいた分である。

みんなお腹が空いていたこともあって女の子とは思えないほどの食欲を見せている少女達であるが、坂本夫妻や藤井などの日頃は居ないゲストが居ることもあまり気にした様子はなく相変わらずの賑やかな食事になっていた。

これも横島の店での経験か少女達は友人や知人など大勢と食卓を囲むことにすっかり慣れている。

ただ横島達と一緒に夕食を何度か食べてる坂本夫妻はともかく、藤井に関してはそもそもあまり女っ気がないので少し緊張気味というか大人しかったが。

以前一ヶ月ほど店で修業した宮脇兄妹の兄の伸二もそうだったが、普通に友達以上恋人未満のような横島と少女達の関係には戸惑うのが一般的なのかもしれない。


「藤井君もそろそろいい人出来た?」

「いえ私はまだ……。 店の方はなんとかやれてますけど。」

それは端から見ると世間知らずな若者のようにも見えなくもないのだが、坂本夫妻は横島が変わってるのは最早理解してるし少女達も仕事中はしっかり働く面々なのであまり気にしてないが。

まあ坂本夫妻からすると上手くいってる横島達の関係よりは藤井の私生活が気になるようで、妻の方が藤井にそれとなく尋ねるも藤井は苦笑いを浮かべて誤魔化すしか出来なかった。


「あらあら、そろそろ結婚を考えてもいい年なのに。 仕事に集中するのは立派だけど、貴方も横島君の十分の一でもいいから女性に目を向けないと。」

「へっ? ちょっと坂本さん!? なんか誤解してませんか!?」

夫妻にとって息子のような弟子をたしなめるように妻は言葉を続けるも、話の流れで引き合いに出された横島は誤解だと慌てるがそんな横島には少女達ばかりか坂本夫妻の夫まで笑ってしまい横島は無実だと訴えるが誰も信じる様子はない。


「横島君のようなタイプも大変そうね。」

まるで人を女好きの固まりように言う坂本夫妻の妻に横島はかつて散々嫌われたトラウマからか慌ててしまうが、実際かつての横島と比べると自重してるので本当に無自覚である。

ただ坂本夫妻の妻は長年麻帆良で学生達を見てきただけに横島の問題点などお見通しなのだろう。

一般的な男女の友人としてのラインを完全に越えてる横島と少女達を何とも言えない表情で見守っていた。

まあ仕事の面で見ると確固たる信頼関係は必ずしも悪い訳ではないが、実際問題として今後どうするんだろうと疑問は抱かずにはいられないのが本音だろう。

仕事馬鹿の藤井と恋愛オンチの横島を見比べた坂本夫妻の妻は、人間上手くいかないものだとしみじみと感じてしまうようである。


76/100ページ
スキ