平和な日常~冬~5

「料理大会って何の……。 まさか体育祭の料理大会!? そんな馬鹿な……。」

坂本夫妻の夫が使った後輩という言葉からも分かるが、藤井は麻帆良学園出身である。

彼は高校から調理科に進み調理師免許も取得しているが、木乃香が出場した体育祭の料理大会は高校二年と三年の時に二度出場したが残念ながら予選落ちしていた。


「横島さんのおかげなんです。」

藤井が麻帆良を離れてまだ数年しか過ぎてないが、一昨年の超鈴音を筆頭に四葉五月や木乃香と中学生チャンプが居るとは知らなかったらしい。

まあそれだけ数年前には考えられないことなのだろうが、木乃香自身は相変わらず運や偶然が重なった結果だと思っている。

ただそれを木乃香はあまり知らない人に対しては口に出して言わないことにしていた。

実情はどうであれ自分をあまり落とすと同じ大会に出場した人達を間接的に落としてるとも受け取られかねないのだから。

元々木乃香はそこまで深く考えていた訳ではないが、新堂や横島を見てると考えるようになり最近は横島か新堂のおかげだと言うようにしている。

それは実際にその通りであることはもちろんだが、木乃香自身もあまり過大評価されるのを好まないので評価と対応を横島か新堂に丸投げしてるとも言えるが。

元々周りへの丸投げは横島の得意技なので木乃香も結構染まってるとも言えた。


「私は準決勝と決勝をビデオで見させてもらったが、本当によくやったと思う。 必ずしも全体的な技術では勝っていた訳ではないからな。」

体育祭の料理大会優勝の価値は麻帆良では果てしなく重い。

実は横島は坂本夫妻の夫が木乃香の優勝を知っていたことに驚いているが、坂本夫妻がそれを知ったのは前回の麻帆良亭復活の後である。

馴染みの人にその話を聞いた坂本夫妻は体育祭のビデオをわざわざ借りて見たようであった。


ちなみに木乃香の技量に関しては現時点においても単純な料理の技量は同年代では突出しているものの、プロを相手に比べると完全に勝ってると言えるほどではない。

もちろん正確には部分的にはプロを凌駕しているが元々木乃香も横島もプロなど欠片も意識してないので、一般的な料理人が学ぶべき順番もセオリーも完全に無視して好きな技術を習得している。

一応横島も基礎的な技術はしっかり教えてるものの、後はその時の気分と木乃香の興味があるなしで教えてるので端から見ると滅茶苦茶だった。

この点横島は自身のオカルトの師と言える美神令子と小竜姫を足して割ったような感じであろう。

令子ほど基本をおろそかにはしなく小竜姫のように決め細やかな指導はするが、その反面で順序やセオリーはほとんど気にしない。

明確な目標など存在せず、なんとなく日常の中で学んでいくのはかつての横島に似てるとも言える。


「いつまで驚いてるんだ。 手が止まってるのはお前だけだぞ。」

結局話をしながらも調理を続けていた坂本夫妻の夫と横島達であるが、藤井はそんな器用なことが出来ないらしく二度目の注意を受けてようやく調理に集中することになる。

いろいろ思うところはあるようだが、とりあえず考えるを止めたというところだろうか。

結果として前回よりも人数が多いので厨房は余裕を持って仕事が出来るようになっていた。
70/100ページ
スキ