平和な日常~冬~5
その日坂本夫妻は明日も朝一から当日するべき仕込みをするので横島宅に泊まることになった。
本人達は毎回世話になるのも悪いので近くのホテルにでも泊まるつもりのようだったが、タマモとさよが半ば無理矢理泊まってと引き留めた結果である。
一般的な大人の常識として坂本夫妻は考えていたようだが、タマモからすると何で今日は家に泊まらないのと逆に不思議だったらしい。
まあ家主である横島としては坂本夫妻が好きなようにすればいいとしか考えてなかったようで、どっちでも良かったようだがあえてタマモのワガママを止めることはしなかった。
「そう言えば一階の倉庫から高級食器が出て来たんっすけど、ご自宅に送りましょうか?」
結局この日の夜は坂本夫妻は前回に続き横島宅に泊まり、タマモは坂本夫妻の妻と一緒にお風呂に入ってご機嫌な様子である。
横島や坂本夫妻の夫も明日の仕込みや店の掃除を終えて二階に上がりゆっくりしていたが、ふと横島は年末の大掃除の時に見つけた高級食器のことを坂本夫妻に話始めた。
「ああ、あれか。」
高級食器という呼び方に坂本夫妻は最初何のことか分からなかったらしく顔を見合わせて考えていたが、横島がマイセンの食器だと具体的な名前を上げると思い出したようだ。
「あれは二代目の店主が馴染みのお客さんに頂いたらしいのよ。 何でも貿易関連のお仕事をしていたとかでヨーロッパ土産として頂いたって聞いたわ。」
横島自身も半ば忘れていたことで、前回坂本夫妻が来たときに話忘れたのだがどうやら頂き物らしい。
坂本夫妻も詳しいいきさつまでは知らないようであるが、大正時代の頃に頂いた物とのこと。
「あれはそんなに価値があるのか?」
「俺もそんなに詳しくはないんっすけど、一つ十万はするかと。」
基本的に古いものが多い麻帆良亭に居ただけにどうやら坂本夫妻はあまり価値を理解してなかったらしく、具体的な金額を聞くと驚き固まっていた。
恐らく二代目店主もそれがヨーロッパの高級食器なのは理解していただろうが、具体的な値段までは知らなかったのだろうし百年近く前の物なので価値も上がったのかもしれない。
「君達で使ってくれて構わないよ。 引退した老人が使う食器じゃないからな。」
驚きのあまり顔を見合わせてしばし考え込む二人だが、すぐに我に返ると夫の方が代表する形で自分達には不要だと告げる。
金額は少し予想外だったが元々残したものは不動産屋に処分を頼んだ物であり、それが処分されずに使われていること自体想定外だったのだが今更高級食器だけを受けとる気はないようだ。
「そうですか。」
全部で二百万は軽く越えるものをすぐに譲るという坂本夫妻に横島は驚きつつも心情はなんとなく理解出来る気がした。
それはお金の問題ではなく例え麻帆良亭が消えてもこの店に麻帆良亭の歴史の一部であるあの食器を残したいという想いなのだろう。
一瞬代金を支払い買い取る形にしようかとも思うが、お金を受けとるタイプには見えないし坂本夫妻の想いを汚すようなことは言えるはずがなかった。
横島自身気まぐれで始めた店だけに元々この先どうしようかなんて全く考えてなかったが、坂本夫妻と会って以降は少し考えるようになっている。
最近はいつか横島が麻帆良を離れる時が来てもこの店だけは誰かに継いで欲しいと思い始めていたし、継がせなければならないとも思う。
結局この店もあの食器もいずれ誰かに渡すまで預かることにしようと決めるが、それは横島自身が抱える異空間アジトまた似たような形で受け継いでるだけにそう思うのだろう。
「きれいなおさらだよね。 あれでごはんたべたらたのしそう!」
坂本夫妻が果たせなかった願いを計らずも受け継ぐ形になった横島であるが、金銭的な価値を理解してないタマモは高級食器を綺麗なお皿としか感じてなくあれでご飯を食べたいと素直に語る。
そんな純粋過ぎるタマモにさよは若干困った表情を見せるが、横島と坂本夫妻はツボにハマったのか笑ってタマモを見ていた。
本人達は毎回世話になるのも悪いので近くのホテルにでも泊まるつもりのようだったが、タマモとさよが半ば無理矢理泊まってと引き留めた結果である。
一般的な大人の常識として坂本夫妻は考えていたようだが、タマモからすると何で今日は家に泊まらないのと逆に不思議だったらしい。
まあ家主である横島としては坂本夫妻が好きなようにすればいいとしか考えてなかったようで、どっちでも良かったようだがあえてタマモのワガママを止めることはしなかった。
「そう言えば一階の倉庫から高級食器が出て来たんっすけど、ご自宅に送りましょうか?」
結局この日の夜は坂本夫妻は前回に続き横島宅に泊まり、タマモは坂本夫妻の妻と一緒にお風呂に入ってご機嫌な様子である。
横島や坂本夫妻の夫も明日の仕込みや店の掃除を終えて二階に上がりゆっくりしていたが、ふと横島は年末の大掃除の時に見つけた高級食器のことを坂本夫妻に話始めた。
「ああ、あれか。」
高級食器という呼び方に坂本夫妻は最初何のことか分からなかったらしく顔を見合わせて考えていたが、横島がマイセンの食器だと具体的な名前を上げると思い出したようだ。
「あれは二代目の店主が馴染みのお客さんに頂いたらしいのよ。 何でも貿易関連のお仕事をしていたとかでヨーロッパ土産として頂いたって聞いたわ。」
横島自身も半ば忘れていたことで、前回坂本夫妻が来たときに話忘れたのだがどうやら頂き物らしい。
坂本夫妻も詳しいいきさつまでは知らないようであるが、大正時代の頃に頂いた物とのこと。
「あれはそんなに価値があるのか?」
「俺もそんなに詳しくはないんっすけど、一つ十万はするかと。」
基本的に古いものが多い麻帆良亭に居ただけにどうやら坂本夫妻はあまり価値を理解してなかったらしく、具体的な金額を聞くと驚き固まっていた。
恐らく二代目店主もそれがヨーロッパの高級食器なのは理解していただろうが、具体的な値段までは知らなかったのだろうし百年近く前の物なので価値も上がったのかもしれない。
「君達で使ってくれて構わないよ。 引退した老人が使う食器じゃないからな。」
驚きのあまり顔を見合わせてしばし考え込む二人だが、すぐに我に返ると夫の方が代表する形で自分達には不要だと告げる。
金額は少し予想外だったが元々残したものは不動産屋に処分を頼んだ物であり、それが処分されずに使われていること自体想定外だったのだが今更高級食器だけを受けとる気はないようだ。
「そうですか。」
全部で二百万は軽く越えるものをすぐに譲るという坂本夫妻に横島は驚きつつも心情はなんとなく理解出来る気がした。
それはお金の問題ではなく例え麻帆良亭が消えてもこの店に麻帆良亭の歴史の一部であるあの食器を残したいという想いなのだろう。
一瞬代金を支払い買い取る形にしようかとも思うが、お金を受けとるタイプには見えないし坂本夫妻の想いを汚すようなことは言えるはずがなかった。
横島自身気まぐれで始めた店だけに元々この先どうしようかなんて全く考えてなかったが、坂本夫妻と会って以降は少し考えるようになっている。
最近はいつか横島が麻帆良を離れる時が来てもこの店だけは誰かに継いで欲しいと思い始めていたし、継がせなければならないとも思う。
結局この店もあの食器もいずれ誰かに渡すまで預かることにしようと決めるが、それは横島自身が抱える異空間アジトまた似たような形で受け継いでるだけにそう思うのだろう。
「きれいなおさらだよね。 あれでごはんたべたらたのしそう!」
坂本夫妻が果たせなかった願いを計らずも受け継ぐ形になった横島であるが、金銭的な価値を理解してないタマモは高級食器を綺麗なお皿としか感じてなくあれでご飯を食べたいと素直に語る。
そんな純粋過ぎるタマモにさよは若干困った表情を見せるが、横島と坂本夫妻はツボにハマったのか笑ってタマモを見ていた。