平和な日常~冬~5
そして麻帆良亭限定復活の前日になると、ワゴン車にて坂本夫妻が店にやって来ていた。
ドミグラスソースなどの数日かかる仕込みは自宅で途中まで仕込んで来たらしく大きな業務用の寸胴鍋を持参している。
寸胴鍋は結構な重量のはずが坂本夫妻の夫は多少重そうにするもしっかりと運んでおり、その姿を見ると引退するのが早かったと言われた理由が分かったような気がする。
「おいしそうなにおいがする。」
「これはまだ作ってる途中なんだ。 夜には完成するからその時に味見をさせてあげるよ。」
坂本夫妻が訪れたのは午前十時頃であったが、この日は土曜日ということもありすでに店内は女子中高生で賑わっていた。
大きな鍋を抱えて厨房に入る坂本夫妻をタマモは追いかけるように後を着いていき、鍋の中身が気になるらしく瞳をキラキラと輝かせて食べたそうに見上げている。
流石に味見したいとは言い出さないタマモであるが、その表情は言葉よりも分かりやすく坂本夫妻は完成したら味見をさせてあげるからと約束していた。
「おいでタマちゃん、こっちで一緒に見てような。」
そのまま坂本夫妻の夫は厨房で仕込みを始めるが、木乃香は麻帆良亭の仕込みに興味があるらしく横島やタマモと一緒に邪魔にならないようにと気を付けながらも見学を始める。
洋食メニューは横島もたまに作るので仕込みの手順は木乃香も知っているが、作る人が違えば食材も火加減も微妙に違いがある。
横島との違いが味にどう変化するのか楽しみなようであった。
「結構予約が入ったわね。」
一方妻の方は夕映とのどかと予約に関する打ち合わせを始めていた。
予約はすでに四十件にも達しており、予約時間には席を空けておかねばならない。
「予約席はその都度確保するやり方でいいでしょうか?」
「そうね。 個室の方は使えるのかしら?」
「はい、大きい個室は今も普通に使ってますし小さい個室は今は横島さんが占い部屋にしてますが、すぐに片付けられるので問題ないです。」
「じゃあ、二つの個室を予約席にして足りない分はその都度空けて使いましょうか。」
夕映達は予約時間が近くなったら予約席として席を確保しておくやり方でいいのではと思っていたが、予約だけで結構数があるので大小二つの個室を基本的には予約席として確保して後は臨機応変に対応することに決まる。
正直どの程度混雑するか分からない部分もありなんとも言えないが、予約席の確保のタイミングは間違えられないので意外と大変だった。
「君達は本当に楽しそうだな。」
「はい、楽しいです。」
その後横島と木乃香は坂本夫妻の夫の仕込みを見学しつつもいつもと同じく和気あいあいと注文を受けたメニューを作ってたが、ふと横島がフロアに行った際に厨房が静かになると坂本夫妻の夫が木乃香に話しかけてくる。
基本的に昔気質な夫は相変わらず横島の店の空気に若干だが戸惑っていた。
厨房を子供がチョロチョロするなど彼が現役時代ならば絶対にさせなかっただろうし、調理の最中に笑い話をするなど考えられなかった。
「楽しく料理をするか。 私には考えられなかったな。 常に真剣勝負のような気持ちだった。」
本音を言えば抵抗感がない訳ではないが、流石に今は他人の店なので口出しはするつもりがない。
それに客観的に見てそれで店は上手く行ってるし料理のクオリティも決して麻帆良亭に劣ってる訳ではない。
正直なんとも言えないと言うのが現状なのだが、要所を上手く押さえてるなとは思う。
「ウチも料理には真剣なつもりです。 きっと横島さんも。 でも横島さんってちょっと変わってるんです。 お客さんも従業員も関係なくみんなで楽しめるような、そんな店が好きなんやと思います。」
坂本夫妻の夫の戸惑いを木乃香はなんとなく理解していた。
真剣に料理と店と向き合って来た坂本夫妻からすると横島のようなタイプは抵抗感があって当然だし、素直に受け入れられないのも無理はないと思う。
実際横島は料理だけは真剣で安易な妥協などしないが、店のことに関してはビックリするほど加減だった。
ドミグラスソースなどの数日かかる仕込みは自宅で途中まで仕込んで来たらしく大きな業務用の寸胴鍋を持参している。
寸胴鍋は結構な重量のはずが坂本夫妻の夫は多少重そうにするもしっかりと運んでおり、その姿を見ると引退するのが早かったと言われた理由が分かったような気がする。
「おいしそうなにおいがする。」
「これはまだ作ってる途中なんだ。 夜には完成するからその時に味見をさせてあげるよ。」
坂本夫妻が訪れたのは午前十時頃であったが、この日は土曜日ということもありすでに店内は女子中高生で賑わっていた。
大きな鍋を抱えて厨房に入る坂本夫妻をタマモは追いかけるように後を着いていき、鍋の中身が気になるらしく瞳をキラキラと輝かせて食べたそうに見上げている。
流石に味見したいとは言い出さないタマモであるが、その表情は言葉よりも分かりやすく坂本夫妻は完成したら味見をさせてあげるからと約束していた。
「おいでタマちゃん、こっちで一緒に見てような。」
そのまま坂本夫妻の夫は厨房で仕込みを始めるが、木乃香は麻帆良亭の仕込みに興味があるらしく横島やタマモと一緒に邪魔にならないようにと気を付けながらも見学を始める。
洋食メニューは横島もたまに作るので仕込みの手順は木乃香も知っているが、作る人が違えば食材も火加減も微妙に違いがある。
横島との違いが味にどう変化するのか楽しみなようであった。
「結構予約が入ったわね。」
一方妻の方は夕映とのどかと予約に関する打ち合わせを始めていた。
予約はすでに四十件にも達しており、予約時間には席を空けておかねばならない。
「予約席はその都度確保するやり方でいいでしょうか?」
「そうね。 個室の方は使えるのかしら?」
「はい、大きい個室は今も普通に使ってますし小さい個室は今は横島さんが占い部屋にしてますが、すぐに片付けられるので問題ないです。」
「じゃあ、二つの個室を予約席にして足りない分はその都度空けて使いましょうか。」
夕映達は予約時間が近くなったら予約席として席を確保しておくやり方でいいのではと思っていたが、予約だけで結構数があるので大小二つの個室を基本的には予約席として確保して後は臨機応変に対応することに決まる。
正直どの程度混雑するか分からない部分もありなんとも言えないが、予約席の確保のタイミングは間違えられないので意外と大変だった。
「君達は本当に楽しそうだな。」
「はい、楽しいです。」
その後横島と木乃香は坂本夫妻の夫の仕込みを見学しつつもいつもと同じく和気あいあいと注文を受けたメニューを作ってたが、ふと横島がフロアに行った際に厨房が静かになると坂本夫妻の夫が木乃香に話しかけてくる。
基本的に昔気質な夫は相変わらず横島の店の空気に若干だが戸惑っていた。
厨房を子供がチョロチョロするなど彼が現役時代ならば絶対にさせなかっただろうし、調理の最中に笑い話をするなど考えられなかった。
「楽しく料理をするか。 私には考えられなかったな。 常に真剣勝負のような気持ちだった。」
本音を言えば抵抗感がない訳ではないが、流石に今は他人の店なので口出しはするつもりがない。
それに客観的に見てそれで店は上手く行ってるし料理のクオリティも決して麻帆良亭に劣ってる訳ではない。
正直なんとも言えないと言うのが現状なのだが、要所を上手く押さえてるなとは思う。
「ウチも料理には真剣なつもりです。 きっと横島さんも。 でも横島さんってちょっと変わってるんです。 お客さんも従業員も関係なくみんなで楽しめるような、そんな店が好きなんやと思います。」
坂本夫妻の夫の戸惑いを木乃香はなんとなく理解していた。
真剣に料理と店と向き合って来た坂本夫妻からすると横島のようなタイプは抵抗感があって当然だし、素直に受け入れられないのも無理はないと思う。
実際横島は料理だけは真剣で安易な妥協などしないが、店のことに関してはビックリするほど加減だった。