「暇そうだな。」

続けてラーメン屋の親父と入れ代わるように店にはチャチャゼロを連れたエヴァが訪れていた。

呪いを解いて以降完全に学校に行かなくなった彼女は一言で言えば暇をもて余しているらしい。


「私が何かすればジジイの仕事が増えるだけだからな。」

最近はまた平日の日中に訪れてはタマモに将棋やチェスを教えたりして暇潰しをしているエヴァを、横島は少し羨ましそうに見つめる。

以前は横島と囲碁を打ったりしていたが流石に最近は横島もそこまで暇じゃないので、タマモの相手をする時間が増えていた。

尤もエヴァも好きで暇をもて余しているのではなく消去法で仕方なくこの生活を続けているだけだが。

闇の福音が復活したなどと騒ぎになり面倒な連中が来るのもエヴァは望まなく、結局のところどんな道を選んでも何かを我慢しなければならないならば現状のままでいいというのが現在の心境らしい。


「それもそうか。」

基本的に寿命という観念がない存在は人間とは価値観が違う。

人間のように限られた寿命で生きる場合は時間は有限だが彼女のような存在にとって時間は無限なのだ。

暇をもて余しつつもそのくらいでいいと考えるエヴァの気持ちは横島も分からないではない。


「タカミチは貴様のせいで魔法の習得に熱を上げてるぞ。 わざわざ私の別荘に来て魔法の矢を覚えているからな。」

「へ～、木乃香ちゃん達と逆になっちまったな。 木乃香ちゃん達は夜に少し練習する程度だぞ。」

その後横島は時折やってくる客の相手しつつもエヴァと密かに魔法の話を始める。

どうも高畑は新たに可能性が広がったことで最近は再びエヴァのボトル型魔法球で修行をしているらしい。

木乃香達は夕食後の時間に横島や刀子に店や横島宅で教わり練習しているのとは大違いであり、横島の印象としては木乃香達と逆になったと感じたようだ。


「あの男も本当に成長しない。 困ったものだ。」

エヴァはあまり多くを語らないが、基本的に脳筋な高畑に半ば呆れてるようではある。

以前横島に少し語ったが元々高畑は魔法を使えないことで強くなっただけに少しくらいは心配してもいるようだが。


「別にいんじゃねえか。 一度きりの人生なんだからさ。 好きにやりゃあ。」

対する横島は投げやりとも感じるほど突き放した言い方をするが、正直なところ今更高畑が生き方を百八十度変えれるなどとは思ってない。

魔法の件は先日魔法世界の秘密を明かした影響かとも思うが、それでも世界を救うと言って飛び出さないだけ以前よりは変わったと感じている。


「私は貴様に振り回されるあの男が少し不憫なだけだ。」

「人聞きの悪いこというなよ。 高畑先生には結構気を使ってるぞ。」

ほんの少しだけ考える素振りをして好きにすればいいと言う横島を見て、エヴァは明らかに横島が原因だろうと見抜いたらしい。

一見すると人に振り回されてるように見える横島であるが、最終的にはいつの間にか逆に振り回してるだけにタチが悪いとしみじみと思うようだ。

まして横島は半ば自覚なくしてやってるだけに始末に負えない。


「……あれで気を使ってるのか。」

「そもそも女ならともかく大人の男だしな。 あの人に必要以上の横やりは要らんだろ。」

エヴァは高畑には気を使ってると本気で語る横島に一瞬唖然としてしまうが、言われてみると横島は女子供に甘いわりに男にはそうでもないのだと思い出す。

近右衛門との関係もそうだが敬意を払う分だけ男に対しては厳しいのかも知れないと感じる。

尤もただ単に女好きなだけかもしれないとも思うが。