平和な日常~冬~5

「へ~、桜咲さんも神鳴流なんだ。 やっぱり山のような大岩斬ったり海を割ったり出来るの?」

「あの神鳴流は一応秘密なのですが、何故皆さん知ってるのですか?」

その後刀子がいじられていたのが落ち着くと少女達の興味は刹那に向いていた。

神鳴流といえば詠春の映画であるサムライマスターの影響で山のような大岩を斬ったり海を割ったりするイメージが定着しており、詠春も刀子も多少誇張されてはいるがほぼ同じことが出来るとのことで神鳴流は超人集団だとの認識が少女達にはある。


「この子達には魔法を明かしたのよ。 ついでに西の長が若い頃を題材にした映画も見せたから。」

「魔法を? そんな滅茶苦茶な……。」

対する刹那は注目を集めることは元より本来は一般人に秘密のはずの神鳴流であることが知られていることに驚き戸惑うが、十人ほどの一般人に魔法を明かしたと聞くと驚きどころの騒ぎではなく信じられないといった表情をしていた。

まあ魔法関係者にとって魔法は隠すものであり、理由はどうあれ大人数に明かすなど正気の沙汰とは思えないのが一般的なのである。


「学園長先生も西の長も承知のことよ。 いずれバレて騒がれるよりはね。」

刀子は近右衛門や詠春も承知の事であると説明はするが、なんというかバレそうだというだけで一般人に魔法を教えていたら、それは最早秘密でなくなってしまうのではと刹那は密かに思う。


「あれが普通の反応なんですね。」

「葛葉先生も最近マスターに影響されてるものね~。」

「他人事ではありませんが、普通はやらない方法なんだと思いますわ。」

一方少女達にとって刹那は身内以外の魔法関係者と初めて会ったと言っても過言ではなく、自分達がいかに特殊な環境か改めて理解していた。

普通は人が増えれば秘密は漏れるリスクが高まるし、秘密は出来るだけ知る人を減らすのがセオリーなのだ。

まるでパンが無ければお菓子を食べればいいとでも言うことと同じレベルの暴論なのかもしれないと思うが、横島は結構この手の大胆な行動を平然と行う人間である。

というか刀子はあえてこの場では言わないが少女達に魔法を明かした理由には、横島という規格外な存在を麻帆良に繋ぎ止めたいとの考えも近右衛門達にはあった。

その結果、最終的に横島の意向が強く反映されたのだが。


「あんまり神経質にならなくても大丈夫よ。 まあすぐに慣れるでしょうけど。」

そして刹那に説明していた刀子であるが、彼女は刹那もそのうち慣れるだろうと割りと楽観視していた。

視線の先にはまるで自分は関係ないと言わんばかりにタマモと遊ぶ横島が居て、刹那が今後木乃香と友達としてやっていけば嫌でもそんな横島と関わらざる負えないのだ。

まあ刹那の性格だと横島に振り回される可能性はかなりあるが、視野が狭い傾向の刹那の場合はちょうどよくなるのではと期待もしている。


「そうだ、今から桜咲さんの歓迎会でもやるか?」

「賛成ー!」

「パーティはええけどお酒はあかんで。」

「俺人間じゃないから酒のんでも身体に悪くないんだが。」

「それとこれとは別問題や!」

結局刹那は木乃香との和解に慣れる間もなく横島達の雰囲気に翻弄されることになるが、横島は何を思ったのか刹那の歓迎会をやると突然言い出し美砂達が賛成したことで美砂達や木乃香やのどかと一緒に厨房に準備に行ってしまう。

もちろん木乃香達にはキッチリお酒はダメだと釘を刺されていたが。


「あの、歓迎とか気を使わなくても……。」

「横島さん達は理由を付けて騒ぎたいだけだから気にしないでいいわよ。 いつもこうだから。」

「いつもなんですか。」

その後フロアに残された刹那は遠慮がちに歓迎会など気を使わなくてもと口にするが、明日菜に横島達の本音を聞くと反応に困った様子であった。

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