平和な日常~冬~5

一方部屋の外ではやはり少女達が木乃香と刹那の話し合いの行方がどうなるか気にしていたが、横島はあまり気にしてないというか気にならないようであった。

それは木乃香達を信じてるという面もあるが、そもそもの問題として横島は刹那に対してあまり興味がない。

今回の件に関しても刀子や木乃香の為と思えばこそ協力はするものの、本音を言えば刹那自体は割りとどうでもいいとすら言える。

無論その生い立ちや過去は不憫に思うが詠春や神鳴流の人々があれだけ愛情を注ぎ育てたにも関わらず、自分の殻に閉じ籠るような道を選んだ刹那を自分から進んで助けようとは思わないのが現状だった。

基本的に横島は来るものは拒まず内に入るとかなり甘くはなるが、だからと言って自分を頼ってこない者に自分からお節介をしにいくタイプではない。


「桜咲さんは神鳴流ということは相当強いのですか?」

「うーん、純粋な戦闘能力という観点から見ると一般的な魔法関係者の中ではかなりの強さだろうな。 ただ精神的に見ると木乃香ちゃんの方が大人かな。」

暇だったのか横島は今朝の反省を生かす為にと生の果物を使わないスイーツを厨房で試作していたが、刹那の話題で盛り上がりいろいろ疑問が出てきたのか夕映とのどかが横島に疑問をぶつけていた。


「精神的? 剣術などは良くあるように心技体が必要なんじゃないんですか?」

「理想はな。 ただ現実問題として心や精神は早々簡単に鍛えられるもんじゃないからな。 まだ中学生なんだしそれで普通なんだけど。」

横島は疑問をぶつける二人に戦闘能力としての強さは認めつつも、やはり精神的な未熟さを指摘せざるには負えなかった。

ただ年齢的に見ると年相応ではあるので下手に戦場にでも出なければ今のところ問題はないのだが。

実際横島は精神的な強さという意味では決して人のことをとやかく言える過去ではなく、自身が中学生の頃よりは遥かに刹那の方がマシだとは思ってはいる。


「元々二人は幼なじみなんですよね。 そもそも桜咲さんが木乃香を避けた理由は何なんですか? 神鳴流ってお父さんの実家ですよね。 別に避ける理由にならないような……」

いつの間にか厨房には明日菜やハルナに美砂達やあやか達まで揃って横島の話を聞いていたが、のどかはふと和解の話をする前にそもそも何で刹那が木乃香を避けたのかという根本的な疑問に気づいてしまう。

実はそれは木乃香も一番気にしていて、その原因が魔法でないのはとっくに理解している。

当然ながら同じ神鳴流の従姉である鶴子は木乃香を避けることがなかったので、原因が魔法や神鳴流でないのはすぐに解るのだ。


「いや、それは俺の口からはちょっと。 他人の秘密を勝手に暴露するのはダメだろ?」

もうすぐ二年も一緒にいるクラスメートである少女達であるが、刹那に関しては不思議なほど誰も個人的な話は知らなかった。

元々刹那がクラスメートで付き合いがあるのは、同じ裏の仕事をする龍宮真名とお互いになんとなく強さを認める長瀬楓くらいである。

無論横島はその原因が半妖であると知ってはいるが、流石にこの場でペラペラとしゃべる訳にはいかない。


「よく分かんないけど、魔法ってほんと夢がないわよね。」

横島の口から木乃香と刹那が離れた理由が刹那の秘密にあると理解した少女達はそれぞれに秘密が何なのか考えることになるが、同時にまたそれも魔法絡みなのだろうとなんとなく予想は出来ていた。

明日菜は呆れたというか胡散臭げに魔法は夢がないと語ると横島は苦笑いを浮かべつつ、否定出来ないなとしみじみと思ってしまう。

木乃香と刹那の問題は刹那が半妖の過去と正体をトラウマのように抱えてることが原因にあるし、木乃香に魔法を隠してきたことも原因と言えば原因だ。

早々物語のような夢がある世界ではないんだと横島も改めて感じさせられる一件だった。
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