平和な日常~冬~5

この日一面の銀世界になった麻帆良であるが、本来は雪が積もらない地域である麻帆良の雪解けは思いの外早く最初に溶けたのは道路で特に車道は朝のうちに消えている。

横島の店に関しては店の前は朝に雪を片付けていたので一部雪を積み上げた場所以外は早くも溶けてしまった。

そして午後になり学校が始まる時間になると、雪景色はだいぶ減っていてまだ世界樹や中庭や校庭には雪が残る程度になっている。



そんなこの日だが夜を迎えると横島の店では少し微妙な空気が流れていた。

日頃は使わない大きい方の個室が気になるのか、木乃香以外の少女達はなんとなく大人しい。

実はこの日は木乃香と刹那が話をすることになっていたのだ。

個室の中には木乃香と刹那が向かい合うように座っているが、刹那の隣には刀子が座り木乃香の隣には何故かタマモが座っている。


「本当になんて言えばいいのかしらね。」

木乃香と刹那にはお互いにきちんと話す機会が必要だと考えこの場をセットした刀子であるが、穏やかな表情でしっかりと刹那を見ている木乃香に対して刹那は伏し目がちで顔を上げることすら出来てなかった。

まあどっちかと言えば説明しなきゃいけないのは刹那なので木乃香は後ろめたいこともなく気負いはないが、根本的な精神の強さはすでに木乃香の方が圧倒している。

まるで逃げるように日陰を生きてきた刹那と一年近く横島と共に居た木乃香では人としての経験がまるで違っているのは言うまでもないだろう。

ちなみにタマモに関しては二人の話す場を設けることを横島に相談した際に、一緒に話を聞いていたタマモが刹那とも友達だから自分も協力すると言い出したことが始まりだった。

タマモと刹那の関係は横島もよく知らないが、年明けに一度タマモが刹那を夕食に誘って連れてきたことなど話したら刀子がタマモにも同席してくれるように頼んだのである。

元々人付き合いが得意とも言えない刀子は二人を上手く取り持つ自信が今一つなく、本当は横島に期待したが横島は刹那をよく知らないとのことでタマモならば上手くやれるのでは期待した結果であった。

異空間アジトであの気難しいエヴァと楽しげに話すタマモを見れば期待もしたくはなるのだろう。


「話は進んでるか? 余りもんで悪いけど食ってくれ。 じゃあ後は若い者に任せて。」

「横島君、お見合いじゃないんだから……。」

どうやら木乃香は刹那から話してくれるのを待つつもりらしく無言のままであり、刹那は相変わらずうつむいたままで話すらなかなか始まらない。

タマモはそんな二人をじっと見つめてるだけだし刀子は困ったように話の取っ掛かりを掴もうとするが、そんな時ドアをノックした横島が料理やスイーツを持って部屋に入ってくる。

なんというかわざとやってるのではと思うほど空気が読めない様子の横島に刀子は思わず頭を抱えたくなるが、横島は笑ってるだけでさっさと出て行ってしまう。


「どうですか?」

「イマイチ上手くいってないみたいだな。」

横島が去った個室は再び静かになるが、外では個室から出て来た横島に夕映を筆頭に明日菜や美砂達が近寄って来て中の様子を尋ねる。

正直事前に何も聞かされてなかった夕映達はイマイチ事情が分からないようであったが、魔法絡みの問題だとは認識していて心配してるらしい。


「まあ差し入れもしたしタマモがなんとかするだろ。」

「マスターも手伝ってあげればいいのに。」

「俺、なんかあの子に警戒されてるからなぁ。」

基本的に他人に任せる時は丸投げする横島は今回はタマモに丸投げする気らしく、流石に幼いタマモに丸投げする横島に少女達は微妙な表情を見せる。

ただ横島としてはあまり刹那に好かれてないのを理解してる故に、タマモに任せたのだが。


「マスターってよく知らないと怪しい人に見えるもんね。」

「そりゃ言い過ぎだろ。 泣くぞ!」

正直自分よりもタマモが適任だと確信する横島であるが、美砂が刹那からみたら横島は怪しい人かもしれないと冗談っぽく話すと周りが笑い出してしまい空気が一気に和んでいく。

実際幼いながら交遊関係の広さを考えればタマモに任せても大丈夫だろうと少女達も理解していた。
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