平和な日常~冬~5

「どうりで誰も手が出せないはずだよ。」

一方自宅に戻った高畑はスーツから着替えることもせずに、冷たい水をコップ一杯飲むとリビングのソファーに体を投げ出すように横になっていた。

そもそも魔法世界の問題は今に始まったことではなく遥か昔からあった問題なのだ。

それが今の今まで放置されている理由を高畑はメガロメセンブリアやヘラス帝国の怠慢だとばかり考えていたが、横島の話を聞いて実際には問題を解決しようとしても出来なかったのかもしれないとも思う。


「ナギは細かいことを気にしないからな。」

恐らく魔法世界においても世界の秘密にたどり着き解決を試みた魔法使いは存在するのだろうが、高畑が知る限りではナギくらいしか解決しようとした人は知らない。

肝心のナギに関しては魔法世界の存続と魔法世界人の救済だけは考えていたが、地球への影響やメガロメセンブリアへの対応はあまり興味がないらしく誰か他の奴がなんとかするだろうとしか考えてなかった。

だが高畑にはナギのようにそこだけを考えて動くなど出来るはずがないことである。


「やはり全ての人が救われる未来はないのか?」

しかし横島の話は全てが悪い話ではなく明日菜を守るべく理由にもなっていて、高畑は明日菜を絶対に守らねばならないと改めて覚悟を決めることにもなっていた。

特に高畑がショックだったのはメガロメセンブリアが魔法世界人を消そうとしていたとの話で下手をするとクルトもそれを狙う可能性があると見ている。

彼らの計画である魔法世界の本来の住人を犠牲にしてまでも世界を永らえても、地球側の魔力をその分だけ魔法世界に持っていくことは地球側にとっても問題になるのだ。

ある意味メガロメセンブリアは一番得をする方法であるが、高畑はそれをやるくらいなら完全なる世界の計画の方がまだマシだと考えていた。

結局のところあちらを立てればこちらが立たずという状況そのままであり、近右衛門は元より異空間に一つの独立した世界を持つ横島ですら安易に手を出せない理由を高畑はようやく理解する。

というか二十年前のアリカの件でも明らかだが、メガロメセンブリア元老院は高畑ですら最早害悪を二つの世界にばらまく組織としか思えなくなって来ていた。

まあ元老院全てが悪いとは思わないが少なくとも自浄能力があまりないことは明らかである。


「僕に出来ることは明日菜君を守りつつ、崩壊に備えて少しでも多くの人を救う為の準備かもしれないな。」

そのまま高畑は横島の話と自身の過去や情報を照らし合わせて考えていくと、いつの間にか時間は深夜になっていた。

実のところ横島の話は明確な証拠や情報ではないが高畑は全て本当のことだろうと思い、その上で自分の取るべき道をずっと考えている。

そもそも高畑はごく最近魔法を使えるようになったばかりで魔法世界の欠陥にはどうしていいか分からない。

正直なところメガロメセンブリアの歴代の魔法使いや学者やクルトなんかが答えを出せない以上は、高畑が今更魔法世界の欠陥をどうにかしようとするのは考えるだけ無駄であった。

ナギならば多少地球側に影響が出ようとも魔法世界を救うのだろうが、幼い明日菜を連れた行き場のない自分を受け入れてくれた麻帆良の人々の為にも高畑は地球に影響の出るような方法は選ぶわけにはいかなかった。

そして高畑はふと横島が最悪の事態を想定してることを思い出し、自分も魔法世界が崩壊した時に備える必要があると考え始める。

ただ具体的に何をどうするべきかは未だにいいアイデアが浮かばなく、近右衛門達や横島にも何か行動を起こす前に自分の考えを相談するべきだろうと考えを固めていく。

まあ具体的に協力してくれるかは別問題だが相談には乗ってくれるだろうし、何より高畑も麻帆良を捨てて魔法世界の人々を救うつもりはないので、いかに無理なく少しでも多くの人々を救えるかを考える必要があった。

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