平和な日常~冬~5

その日の夜、夕食を終えた一行は知り合った多くのハニワ兵達に転移場にて見送られながら地球の雪広邸に出発した日の一時間後に戻っていた。

計三泊四日の異空間アジトへの旅というスケジュールとなったが、雪広邸の屋敷に戻った一行はまるで浦島太郎にでもなったような気分であった。

夢かはたまた狐か狸にでも化かされたのではと微かに思ってしまう者も中には居たが、一緒に雪広邸にやってきたタマモに抱えられたハニワ兵が豪華絢爛な雪広邸を目を白黒させながらキョロキョロと見回している姿に全ては現実だったのだと再認識させられる。


「ほんと、出来ることならずっとあっちに居たかった気もするよ。」

雪広邸に戻ったのは穂乃香と詠春を除いたメンバーで、二人は直接京都の屋敷に転送されたらしい。

あやかとさやかの父である政樹は、我が家に帰ってホッとした気分と旅の終わりの寂しい気分が入り交じった様子だった。


「一種の理想世界にも思えるからな。」

同じくホッとしたような寂しいような心境の千鶴の父である衛は、異空間アジトは一種の理想世界なんだろうと口にする。

人間味が溢れそれでいて何処か憎めないハニワ兵達の世界は、横島の雰囲気に似ているのだろうと改めて感じさせられる。

特に秘密結社完全なる世界の目的が誰もが幸せになる理想郷の構築だと知る大人達にとって、異空間アジトは改めて理想や世界について考えさせるには十分だった。

厳しい現実と迫り来るタイムリミットからつい目を逸らしたくなるのは人間である以上仕方ないことだが、同時に完全なる世界とは別の理想を自身の目で見た大人達は自分達の選択が必ずしも間違いではないと理解できただけで今回の訪問は有意義だったと言える。


「またみんなであそびにいこうね!」

「そうだな。 また行こうな。」

一方タマモと少女達もまた帰るのが寂しく感じるほど楽しい時間であった。

それは世界の広さを知る前の少女達が果てしない宇宙や次元の広さと複雑さを知ったようなもので、少女達は果てしなく広がる未来に自然と希望を抱くことになっている。

そしてタマモにとって今回の一連の出来事は木乃香達に隠し事がなくなったこともあるし、ハニワ兵やエヴァがみんなと仲良くなったことも非常に嬉しいことだった。

タマモには異空間アジトが近いのか遠いのかも分からないが、当然ながらまたみんなでハニワ兵達に会いに行きたいと願い横島もそれを約束する。

横島とタマモの約束は決して特別な約束ではないが、それがまた横島と少女達を繋ぐ一つの絆となり確実な一歩を前に進めることになる。

今回魔法という夢のような現実と共に新たに抱えることになった秘密は、そんな少女達の運命を本来あるべき運命から完全に決別させる最後のきっかけとなるのかもしれない。

無論葛葉刀子や高畑・T・タカミチに今回初めて加わった雪広さやかとエヴァンジェリンもまた本来の運命から完全に決別していくことになる。

まあそれがいいことなのかどうかは一概に言えるような問題ではなく、仮に二つ以上の異なる歴史を客観的に見れる土偶羅でさえも答えは決して出ないだろう。

ただそれでも横島や少女達にとっては今あるべき現実が全てであり、悩み迷いながらでも進むしかない。

何はともあれ現実へと帰還した一同は、明日からまたそれぞれの日常へと帰っていくことになる。

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