平和な日常~冬~5

結局少女達は二時間ほど魔法の練習を続けたところでこの日の練習は終わりとなるが、刀子は麻帆良に戻っても家で練習したいと語る一部の少女達にそれはダメだと伝えて杖は回収していた。

これに関しては関東魔法協会では魔法をきちんと使えない見習いには監督者抜きにした練習を禁止しているのだ。

基本的によほどの事でなければ事故は起きないが万が一ということもあるし、何より本来ならばもっと幼い子供の時に練習させる段階なので分別がつく年までは杖は与えないのが普通のようである。

まあ下手な事故や怪我をするよりはきちんと指導者の元で練習する方がいい。

ただ関西呪術協会では最初は両親が魔法を教えるので両親が責任を持つことでそれぞれの家に任されているし、他に同じ西洋魔法でも国や地域により価値観も違えばやり方はまるで違う。

麻帆良は基本的に人口密度が高く一般人も多いので厳しいのだが、世界的に見ればネギの故郷の村のように魔法使いだけの地域では放任的に杖を与えて勝手に練習させるところも決して珍しくはない。

まあこの辺りは日本人の気質や文化も影響しているのだろうが。

それと横島の気まぐれで魔法が使えるようになった高畑は表面上は落ち着きを取り戻していて、少女達に魔法を見せたり魔法世界の話を問われて答えたりしていた。


「あれ、お母様達は?」

「ああ、暇だからって街に行ったぞ。」

一方大人組のうち女性陣は流石に呪文を唱えるだけの練習風景に飽きたのか、街に行くからと出掛けてしまったらしい。

出掛けたのは木乃香の母に千鶴の母と祖母にあやかの母の四人であったが、出掛ける前に横島宅に住むハニワ兵に木乃香達が貰った洋服や水着の出所を聞いていたので一昨日行った趣味で人間の服を作ってるハニワ兵の家に行ったのかもしれないが。


「どうする? 観光でもいく? カラオケも一応あるのよね。 異世界のだけど。」

そして魔法の練習を終えた少女達はこのあと夕方まで何しようかと相談を始めるが、まだ三日目なので遊びに行きたい場所はたくさんあった。

美砂達はカラオケもいいなと思ってはいるが、問題なのはカラオケが横島の元世界の物なので自分達の好きなアーティストがあるか分からないことだろう。


「タマちゃん何処に行きたい?」

「おいしいものがたべれるところ!」

わいわいと賑やかにそれぞれが行きたい場所を口にして行くが、木乃香が横島の膝の上にいるタマモに聞くと考える間もなく美味しい物が食べれるところと元気に即答する。

時間的にはそろそろおやつの時間なのでタマモも小腹が空いてきたのだろうが、根本的に食いしん坊だという事実も大きいのかもしれない。


「じゃあ食い倒れツアーに行こう!」

「おー!」

そんなタマモの意見にすぐに乗っかってしまったのは、やはり同じく食いしん坊の性質を持つ桜子だった。

しかも勝手に食い倒れツアーと自分の要望を乗せる辺りは彼女のちゃっかりした性格が出ている。

最終的にタマモが桜子の意見に満面の笑みで瞳を輝かせてしまった為に、横島以外の大人組男性陣を除く一行は食い倒れツアーに行くことになってしまう。

まあタマモにも桜子にも悪気はないが木乃香達はタマモにもう少し我慢をすることを教えようと心に誓う。


「エヴァンジェリンさんもよく食べますね。」

「私は人間ではないからな。 成長もしなければ太りもしない。 貴様らとは違うのだ。」

一行は横島以外が女性だったこともあり甘いスイーツやフルーツを中心に美味しそうな店に入っては食べていくが、木乃香達や美砂達にとって意外だったのはエヴァがタマモや桜子と同じように食べ続けていたことだろう。

なんとなく不思議に感じた夕映が尋ねるとエヴァは太らないから問題ないと勝ち誇った笑みを浮かべる。


「エヴァちゃんだけ、ズルい!」

「あほか、食いしん坊娘。 人間でないということは人の世界では異端だということだ。 困っても誰も助けてなどくれないし、全てが自己責任だということなのだ。 貴様らには到底理解出来ないことだろうがな。」

周りの木乃香達はエヴァの言葉からその意味を考える中、太らないという単語と勝ち誇った笑みに刺激されたのか桜子が素直にズルいと声を上げるとエヴァは呆れた表情で自身の言葉の意味を桜子に語って聞かせた。

それは魔法という神秘の力の闇の部分とも言えるほど真面目な話なのだが、桜子もエヴァもスイーツを食べながら話しているので説得力はあまりなかった。

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