その後高畑は放心状態のまましばらく呆然としていたが詠春が高畑の肩をポンと叩き、その心情を理解して共にその複雑な想いを分かち合っていた。


「あんな高畑先生初めて見た。」

その様子はいつもの教師としての高畑ではなく一人の人間としての、いやかつて偉大な仲間達に憧れていたタカミチ少年の様子そのものである。

涙こそ流さないが感無量と言った様子の高畑は、喜びや哀しみといったシンプルな感情を越えた複雑な感情を露にしていた。

それは長い付き合いの明日菜ですら初めて見た様子であり、魔法とはそれほど重要なのかと他の少女達も含めて考えさせられる。

そして突然の騒動の原因たる横島はそんな高畑を見て少し驚きつつも、全体としては満足げな様子であった。


「魔法世界で魔法が使えないのは大変だったと思うわよ。 本当にね。 この世界で例えるなら目が見えないようなものだと思うわ。」

一方の大人達は高畑の心情を痛いほど感じていた。

驚きや戸惑いすら見せる少女達に穂乃香は高畑の苦労を語って聞かせるが、それは穂乃香自身を含めて実体験ではなく知識として知るメンバーばかりで本当に実体験として理解しているのはやはり詠春くらいだろう。

ただそれでも高畑の二十年を思うと言葉では言い表せないほどの衝撃なのは想像に難しくない。



「タカミチは魔法が使えないから強くなったんだがな。」

「手札は多い方がいいだろ？ それに強さが魔法の全てじゃないしな。」

それから高畑の様子を見た少女達は改めてやる気を出して魔法の練習を再開するが、エヴァは魔法が使えるようになった高畑に微かな不安を感じたのか独り言のようにポツリと呟く。

かつて無力だった高畑に修行を付けたエヴァは高畑の魔法に対する思い入れを理解する故に、今後の高畑が迷走しないか不安があるようだ。

言葉が適切かは分からないが高畑では魔法では現在ほどの強さは得られないことをエヴァは理解しているのだ。

尤も横島からすると魔法は一つの選択肢でしかなく使い方次第だと思ってるようだが。


「魔法を使えない者は時々居るが、みな同じ原因かの？」

「どうでしょうね。 それは看てみない限りはなんとも。 ただ極論を言えば解決出来ない原因はないとはおもいますけど。 ただケースバイケースだってのが現実かと思いますよ。」

そして高畑が落ち着く頃になると近右衛門を始めとした大人組は、人間が魔法を使えない原因について話を始める。

なんといっても魔法の最大の欠点は個人の資質により使えなかったり使える魔法がかなり違うことだった。

少なくとも魔法を使えない人間が居なくなれば魔法の欠点の一つが解消されるのだが、現状では横島ですらそれは解らなく今回の高畑はたまたま横島がすぐに治せただけかもしれないともいえる。

まあ横島の場合はアシュタロスの遺産としての情報や技術もあるのでその気になれば原因に関係なく治せるとは思うが、だからといってそれを公言して見ず知らずの他人を治してやる気は今のところ全くない。

第一あの世界にはない元の世界の技術を広げる気は横島には百パーセントなかった。


「では先程の魔法習得方法は？」

「それは幾つか方法がありますよ。 一番簡単なのは経験や技術を直接与える方法っすかね。 魔力の使い方に魔法の詠唱の仕方なんかを体に直接教えるんです。」

そのまま横島は近右衛門達から幾つかの質問を受けてそれに答えていくが、近右衛門達は横島の魔法レベルがかなりぶっ飛んでることを改めて痛感することになる。

まあ滅びゆく世界から一人生き残り脱出したことからも想像はついたが、横島の気まぐれ次第で安易な技術革命が起きるなんてことがないように注意しなければと心に刻むことになった。