平和な日常~冬~4

「ぽー!」

二日目の夕食は何故か焼き鳥屋であった。

店内に焼き鳥の匂いが染み付いているような焼き鳥屋は昭和を感じさせるレトロな雰囲気で、仕事終わりのハニワ兵達で賑わっている。


「私、焼き鳥屋さんは始めてですわ。」

正直あまり未成年が来るような店ではないし金持ちが来るような店でもないが、せっかくだからと日頃行けない店に行こうということになり結果夕食は焼き鳥屋になっていた。

大人組でも半数は焼き鳥屋に来るのが初めてらしく、少女達もほとんどが初めてらしい。


「あー! エヴァンジェリンさんお酒飲んでる!」

とりあえず大人はビールで未成年はジュースやウーロン茶で乾杯するが、当然エヴァはビールを飲んでいる。

その様子に気付いた桜子が半分羨ましそうに声を上げるとみんなの視線がエヴァに集まってしまう。


「エヴァちゃんは実はもう大人なんだよ。 すぐに分かることだから教えるけど、吸血鬼なんだ。」

「あっ、そうなんだ。」

「幽霊に妖怪もいるんだし吸血鬼もいるのね。」

「物語なんかだと日光がダメだとか言いますが、実際には違うのですね。」

大人組や横島はエヴァが自分で説明するのかと少し様子を見るが、エヴァは説明する気はないようなので横島が簡単に説明すると少女達はエヴァ自身がビックリするほど簡単にアッサリと受け入れていた。

誰一人恐れることも意味嫌うこともない状況には流石にエヴァと大人組はポカーンとしてしまうが、少女達からすると今更吸血鬼が一人増えても驚くに値しないらしい。


「貴様ら本当に理解してるか?」

「してるわよ。 吸血鬼なんでしょ。」

長い年月を生きてきたエヴァも流石に少女達のような反応は初めてのようで、思わず確認するように自分から声をかけるが答えた明日菜はだからどうしたのと言わんばかりだ。


「エヴァンジェリンさんが何か訳ありなのは、私達みんなそれなりに気づいてましたよ。」

何かが違うというかこいつら変だという風に見つめるエヴァに
夕映は誰も驚かない原因を語るが、エヴァが何か訳ありなのは多かれ少なかれ誰もが気付いていたことである。

タマモの友達の一人なのは説明したし疑う余地はないが、一緒に異空間アジトに来た訳は聞かされてなく少なからず魔法関係の人なんだろうとはみんな思っていたのだ。


「ウチらタマちゃんの友達を疑うような真似はせえへんよ。」

「タマちゃんって年のわりにしっかりしてるし人を見る目もあるのよねー。」

エヴァが何に驚いていたのか勘がいい少女達は気付いたようで木乃香が嘘偽りなくエヴァに対して何の疑いもないと言い切ると、周りの少女達は同意だとばかりに頷きタマモが悪い人と友達になるはずがないと言い切る。

それは少女達とタマモの確かな信頼関係であり、タマモを育ててると言っても過言でない少女達なだけに当然の答えだった。


「貴様の周りはこんな連中ばっかりだな。」

はっきり言って木乃香達の答えはエヴァの予想もしない答えである。

元々エヴァはクラスメートに興味すらなかったし、木乃香達が自分をどう見てるかすらあまり興味なかったのだ。

木乃香達の答えはろくに世間も知らない子供だから言えるのだとエヴァは一瞬考えるも、視界に入る横島を見るとそれが横島の影響なのだとすぐに考え直していた。


「みんなエヴァちゃんが考えてるよりずっとしっかりしてるよ。 最近の中学生は凄いからな。」

よくよく考えてみると非常識が服を着てるような横島と付き合ってればそりゃ成長もするし鍛えられるだろうと思うエヴァだが、横島本人は少女達の成長と自分はほとんど関係ないと本気でおもっている。

尤もエヴァからみると木乃香達ですらまだまだ現実の厳しさを知らないと思うが、それでも少女達は着実に成長しつつあるとも思う。


「だいたい貴様は人を甘やかし過ぎだ。」

「そっか? みんなちゃんと自分の目で見て判断したんだ。 俺はこれでいいと思うけどなぁ。」

「貴様は少し自分を理解した方がいい。」

ここまで来ると問題なのは少女達ではなく横島なのだと理解したエヴァは容赦なく横島にダメ出しを始めるが、その姿にはエヴァの過去や麻帆良に来てからの孤独な姿しか知らない大人達には驚きを与え、木乃香達を始めとした少女達はエヴァが思ってた以上に常識人だと初めて知る。

タマモとさよはエヴァがいつもの調子に戻ったことで何処か嬉しそうであり、一同はエヴァが横島にダメ出しを出来る数少ない存在なんだと理解することになっていた。
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