平和な日常~冬~4
「お互い年を取りましたね。」
さて街に繰り出したメンバーの中で詠春と高畑は二人で街外れまで散歩に来ていた。
少し小高い丘の上に登ると遠くまで続く何かの畑と青い海が見えている。
かつては仲間達と共に世界中を旅した二人であるが、ここ数年はゆっくりと二人だけで話す機会はお互いの忙しさもあって意外となかった。
詠春は先程の映画を見たせいか希望に満ちていた少年時代の高畑を思い出し懐かしそうに笑みを浮かべる。
「私達が本当に救おうとしたのが世界などではなく孤独に苦しむことすら忘れた一人の少女と、たった一人で世界を救おうとした女性だということは残念ながら人々には理解されてない。 それが残念で仕方ないですよ。」
悲しみや苦しみも数え切れないほどあったが、それでも詠春は自分達に出来ることはしてきたつもりだった。
ただそれでも残念なのは自分達の本当の想いが人々に伝わらなかったことか。
「でもねタカミチ君。 私達は君やクルトを始めとした未来に想いを継ぐ者を残せたことはよかったと思ってます。 ガトウも今の君を見てきっと誇らしく感じてるでしょう。」
無言で遠く見える水平線を見ている高畑に詠春は懐かしそうなまま言葉を続けるが、ガトウという名を聞くと高畑の表情が苦悩に変わる。
あれからもうすぐ十年になるが高畑はあの日を忘れたことはないし、今もなお失った仲間や師匠を追いかけている。
詠春はそんな過去に捕らわれた高畑を解放してやりたかった。
そしてこればかりは自分にしか出来ないことだと自負している。
「正直私は以前のタカミチ君では不安でした。 私もナギもガトウも成し得なかったことを君はたった一人で成そうとしている。 その気持ちは嬉しいのですけどね……。」
時が過ぎ地球すら離れた今ならば言えることもあるし、言わなければいけないこともあると詠春は思う。
仮に以前の高畑ならば決して言えないようなことも今ここでならば言える気がした。
「自分でも不思議な気分ですよ。 この十年間ずっと当たり前のことに気づけなかった自分が。 まさか受け持ちの生徒になったあの子達に教えられるとは思いませんでしたしね。」
「タカミチ君、自分の気持ちに素直になって自由に生きなさい。 例えこれから君が選ぶ道が私達と全く違う道でも、私達と君の関係は何一つ変わるものではないんですよ。 ナギのように過ぎたことなど忘れてしまえばいい。」
いつの間にか西の空がオレンジ色に変わりつつあった。
畑では麦わら帽子を被ったハニワ兵が帰り支度をしており、楽しげに語り合うように見えている。
十年の月日が過ぎてようやく過去ばかりではなく現在を見始めた高畑に詠春は、過ぎたことなど忘れてしまえばいいと些か乱暴にも聞こえることを口にした。
かつて赤き翼の面々は過去よりも未来よりも現在の目の前にある現実を一番見て生きていた。
それは時には失敗に繋がることもあったが、それでもそんな者達だからこそ一時とはいえ世界を救えたのだと詠春は思う。
だからこそ高畑にも同じように自由に生きて欲しかった。
「詠春さん……。」
「まあ、ナギや横島君ほど自由に生きられると周りは大変ですけどね。」
今まで言いたくても言えなかったことを言えたからかすっきりした様子の詠春は自由に生きろと言いつつも、次の瞬間にはナギや横島ほど自由にされると周りが大変だと愚痴というか冗談混じりのように囁く。
そのあまりに的を射た言葉には真剣な様子だった高畑も思わず笑ってしまう。
ナギと横島にはいくつか共通点があるが本当に自由気ままに生きていることと、本人的には普通に生きているつもりだというところはそっくりだった。
詠春と高畑は周りで振り回されてる木乃香達を見ているととても他人事には思えないほどに。
出来ることならばいつの日かナギと横島を会わせてみたいと詠春は一瞬思うが、同時に混ぜるなキケンという洗剤にでも使うような言葉も頭をよぎる。
沈む夕日に別れを告げるようにホテルへと戻る二人だが、高畑の表情は少し晴れ晴れとした様子だったかもしれない。
さて街に繰り出したメンバーの中で詠春と高畑は二人で街外れまで散歩に来ていた。
少し小高い丘の上に登ると遠くまで続く何かの畑と青い海が見えている。
かつては仲間達と共に世界中を旅した二人であるが、ここ数年はゆっくりと二人だけで話す機会はお互いの忙しさもあって意外となかった。
詠春は先程の映画を見たせいか希望に満ちていた少年時代の高畑を思い出し懐かしそうに笑みを浮かべる。
「私達が本当に救おうとしたのが世界などではなく孤独に苦しむことすら忘れた一人の少女と、たった一人で世界を救おうとした女性だということは残念ながら人々には理解されてない。 それが残念で仕方ないですよ。」
悲しみや苦しみも数え切れないほどあったが、それでも詠春は自分達に出来ることはしてきたつもりだった。
ただそれでも残念なのは自分達の本当の想いが人々に伝わらなかったことか。
「でもねタカミチ君。 私達は君やクルトを始めとした未来に想いを継ぐ者を残せたことはよかったと思ってます。 ガトウも今の君を見てきっと誇らしく感じてるでしょう。」
無言で遠く見える水平線を見ている高畑に詠春は懐かしそうなまま言葉を続けるが、ガトウという名を聞くと高畑の表情が苦悩に変わる。
あれからもうすぐ十年になるが高畑はあの日を忘れたことはないし、今もなお失った仲間や師匠を追いかけている。
詠春はそんな過去に捕らわれた高畑を解放してやりたかった。
そしてこればかりは自分にしか出来ないことだと自負している。
「正直私は以前のタカミチ君では不安でした。 私もナギもガトウも成し得なかったことを君はたった一人で成そうとしている。 その気持ちは嬉しいのですけどね……。」
時が過ぎ地球すら離れた今ならば言えることもあるし、言わなければいけないこともあると詠春は思う。
仮に以前の高畑ならば決して言えないようなことも今ここでならば言える気がした。
「自分でも不思議な気分ですよ。 この十年間ずっと当たり前のことに気づけなかった自分が。 まさか受け持ちの生徒になったあの子達に教えられるとは思いませんでしたしね。」
「タカミチ君、自分の気持ちに素直になって自由に生きなさい。 例えこれから君が選ぶ道が私達と全く違う道でも、私達と君の関係は何一つ変わるものではないんですよ。 ナギのように過ぎたことなど忘れてしまえばいい。」
いつの間にか西の空がオレンジ色に変わりつつあった。
畑では麦わら帽子を被ったハニワ兵が帰り支度をしており、楽しげに語り合うように見えている。
十年の月日が過ぎてようやく過去ばかりではなく現在を見始めた高畑に詠春は、過ぎたことなど忘れてしまえばいいと些か乱暴にも聞こえることを口にした。
かつて赤き翼の面々は過去よりも未来よりも現在の目の前にある現実を一番見て生きていた。
それは時には失敗に繋がることもあったが、それでもそんな者達だからこそ一時とはいえ世界を救えたのだと詠春は思う。
だからこそ高畑にも同じように自由に生きて欲しかった。
「詠春さん……。」
「まあ、ナギや横島君ほど自由に生きられると周りは大変ですけどね。」
今まで言いたくても言えなかったことを言えたからかすっきりした様子の詠春は自由に生きろと言いつつも、次の瞬間にはナギや横島ほど自由にされると周りが大変だと愚痴というか冗談混じりのように囁く。
そのあまりに的を射た言葉には真剣な様子だった高畑も思わず笑ってしまう。
ナギと横島にはいくつか共通点があるが本当に自由気ままに生きていることと、本人的には普通に生きているつもりだというところはそっくりだった。
詠春と高畑は周りで振り回されてる木乃香達を見ているととても他人事には思えないほどに。
出来ることならばいつの日かナギと横島を会わせてみたいと詠春は一瞬思うが、同時に混ぜるなキケンという洗剤にでも使うような言葉も頭をよぎる。
沈む夕日に別れを告げるようにホテルへと戻る二人だが、高畑の表情は少し晴れ晴れとした様子だったかもしれない。