平和な日常~冬~4

「それにしても秘密結社の世界征服って。」

「どこまでがノンフィクションなんですか?」

それからしばらくは雑談とこのあとどうするかとの話をしていくが、特に目新しい意見は出てこなくもう一本映画を見ようかという話すらある。

先程見た映画については秘密結社が相手で目的が世界征服だったことに関しては、陳腐というか一昔前の漫画にあったようなネタだと笑ってしまいイマイチリアリティを感じないらしい。


「映画の内容は現実とはだいぶ違いますけど、相手の主な目的が世界征服であることは本当ですよ。」

娘や少女達が映画をそのまま信じなくて心底ホッとしていた詠春だが、秘密結社完全なる世界の話になると少し難しい表情をして言葉を選びながら答えていく。

今時世界征服なんてネタだったら流行らないわよというハルナの言葉が妙に詠春の胸に響くが、流石にそれ以上の真実は言えるはずがなかった。

一方の少女達は詠春の言葉に改めて考えてみるものの、どうしても納得というかしっくり来ない。

一言で言うならばあまりにも荒唐無稽な話であり、秘密結社の世界征服が上手くいくとはとても思えないのだ。


「それにしても秘密結社は一体何をしたかったのか? 魔法世界の国々を全面戦争をさせて世界がボロボロになったところで征服ですか? 些か疑問がありますね。」

「確かにそうですわね。 現実的に世界征服を出来たとしても統治するには膨大な人員や資金や物資が必要になります。 正直戦争で世界中が荒廃した世界を征服する意味などあるのでしょうか?」

「なんか歴史というか文明を消し去りたいみたいに感じるわ。 過激な維新とでも言うのかしら?」

そんな中で映画を元にした詠春の話に真っ先に疑問を投げ掛けたのは夕映であり、あやかと千鶴はそれを補足するように具体的な疑問や違和感を続ける。

彼女達の疑問は世界征服そのものではなく、どちらかと言えばその後に関してであった。

映画では赤き翼が居なければ彼らの計画が上手く行っていたように思えるし、多少表現に誇張があるとしても詠春達が英雄となったのはそれに類似する活躍があったからなのは想像に難しくない。

ただここで疑問なのは映画には秘密結社側の具体的な計画や理想が一切なかったことだろう。

地球の歴史にも世界征服と類似する歴史があるが、世界を動かすほどに大きくなったのは相応の理想や目的が一応はあることが多かったのだ。

まるで国家や文明を一新したいような秘密結社の行動に単純な世界征服で納得するほど、夕映達は単純でも愚かでもない。


そして夕映達の疑問が出ると他の少女達も加わり一同は少し真剣に考え始めるが、その様子と疑問には大人達は表情にこそ出さないが冷や汗ものだった。

冷静に考えてただの世界征服だと言われて納得する方が不自然であり、実は魔法世界においても学者やジャーナリストを中心に秘密結社完全なる世界に関しては今もなお研究や議論が行われている。

まあ魔法世界の場合は国家の上層部が真実をひた隠しにしていて、時には非合法な手段で真実に近付いた者を葬るほど徹底しているので今のところ真実は明らかになっていないが。


「横島さん、先程から無言ですが何か知ってるのですか?」

とりあえず夕映達の疑問に関しては下手な嘘を重ねるよりは知らないということにしようと決める大人達であるが、夕映を始めとした木乃香達は先程から不自然なほど無言でまるで我関せずと言わんばかりにタマモと遊ぶ横島に矛先を向ける。

流石に大人達が何かを隠してると確信は持てない木乃香達であるが、横島に関してはなんとなく怪しいと気付いてしまう。


「何故俺に聞く。 俺は異世界から来たから連中のことはよく知らんぞ。」

「そうですか? ならいいのですが。」

一方突然矛先を向けられた横島はと言えば基本的には他人事なのであまり気にせずタマモとじゃれ合うように遊んでいたのだが、疑うというか確信ありげな夕映達を冷静に当たり障りのない言い訳で誤魔化す。

その様子は一見すると嘘には見えないが夕映は逆に何かを知ってるとより確信するも、追求することなくあっさりと引いてしまう。

詠春にしても横島にしても言えないことの一つや二つはあるだろうし、特に詠春は綺麗事だけで世界が救えたとは思わない。

知りたいという好奇心がない訳ではないが、人の心に土足で踏み込むほど夕映達は子供ではなかった。
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