「みてみて！」

女性のファッション選びは男性にとってはとにかく長く感じる。

横島と高畑の元にはタマモを筆頭に少女達が試着する度に見せに来るが、横島と高畑の意見は何を着ても基本的に似合ってると言う。

それは別に嘘でも誤魔化しでもないのだろうが、なんとなく納得がいかない少女達は再び別の服に着替えるので余計に長くなっていた。


「騒がしいやつらだ。」

そんな女性陣で最初に着替えが終わったのはエヴァであり彼女は好みの服が見つかったらしく、いつものゴスロリに近い服に着替えている。

着替え終わったエヴァはハニワ兵に飲み物を要求して、先程本屋で選んだ本を庭の一角にあったウッドチェアに座って読み始めていた。

横島に関しては先程から芝生の上に寝転んでいて、少し前から雲がなくなり晴れていく空を見上げてぼーっとしている。


「ここは空気が美味しいですね。」

「ああ、ここには公害になりそうな物がほとんどないからな。 ガソリンエンジンの車なんかは趣味で使ってる奴はいるだろうけど。」

天気が徐々に好転してきたことにより南国の日差しが横島を照らし始めるが、そんな日差しの心地好さにまどろむ横島の元には着替え終えた少女達が一人また一人と集まって来ていた。

エヴァに次いで早かったのは千鶴で、彼女は服が汚れるのを気にもせずに横島の近くの芝生に座っている。

季節的に南国の島も冬であり暑すぎるほどではないが、太陽の日差しの暑さと吹き抜ける風の涼しさは本当に心地いい。

草木の匂いに微かに混じる海の匂いは、ここが異空間にある別世界だということを忘れさせそうなほどだった。


「海が近いんですか？」

「車だとすぐだよ。 ワイキキビーチじゃないけどな。 ワイキキビーチって人工の砂浜らしくってさ、ここじゃ作ってないんだよ。」

風に香る海の匂いに千鶴はふと海が近いのかと尋ねると、横島はそれを肯定しつつもハワイで有名なワイキキビーチはここには存在しないと告げる。

異空間アジトとはいえ基本的には地球をそのまま再現した世界なので基本的な地形などは同じであるが、地球で人間が人工的に作った場所なんかは当然存在しない。

ワイキキビーチやお台場などは再現する必要がないので存在しなかった。


「那波さんも結構油断も隙もないのよねー。」

「早く着替えたのってまさか……。」

一方室内で洋服を選んでいた少女達はいち早く着替えた千鶴がちゃっかり横島とゆっくり話してる姿を目撃すると、千鶴が早く着替えたのはそれが狙いかと騒ぎ出す。

人数が多いだけになかなか二人でゆっくり話すタイミングがない中で千鶴は上手いことやったなと特に美砂なんかは思うが、この日来ている少女達の中でも千鶴は割りと横島と二人になる時間を作るのが上手いというのは少女達の共通認識である。

最初から横島に深く関わっている木乃香達は別にして後から横島に関わるようになった美砂達と千鶴であるが、基本的には積極的に横島に近付く美砂達と対称的に千鶴は一見すると積極的に見えないように横島に近付いたとの印象があった。

気が付くといつの間にか横島との距離を縮めていて油断も隙もないというのが周囲の印象らしい。


「しかし油断も隙もないと言うなら、葛葉先生も……」

「確かに魔法っていう共通の秘密を抱えて、お客さんの少ない夜に二人になる機会が多いものね。」

ぶっちゃけ千鶴のよういな容姿で恋愛も上手いとなると勘弁して欲しいと考える美砂であるが、ふとそこで夕映が同じく油断も隙もない人として刀子の名前を上げると少女達の視線は一緒に横島と千鶴の様子を見ていた刀子に集まる。

現在横島に特定の恋人が居ないのは疑いようもないが、共通の秘密を抱えつつ横島と二人になる機会が多かった刀子は本気で横島を狙いに行っていたのではと疑われていた。