平和な日常~冬~4

「これが子供の頃の高畑先生なの!?」

横島の予期せぬ告白に驚く美砂達に釣られるように木乃香達まで集まってしまい、話題の張本人である高畑も困ったような表情を浮かべてやって来る。

高畑が魔法関係者であることは昨日聞いたが具体的な話は一切なかったので知らなかったのだ。


「僕は元々孤児でね。 詠春さん達に拾われて育ててもらったんだよ。 後であの映画を見れば分かるけど詠春さん達は本当に凄くてね。 おかげで一緒に居ただけの僕もそこそこ名が知られてるんだよ。」

魔法世界で映画になるほど有名人である若き日の詠春と一緒だった高畑に少女達の注目が集まるが、高畑はあまり深く語らずとも詠春と自分の関係を懐かしそうに語り始めた。

自身のことだけに少し謙遜が入ったような説明ではあるが、高畑自身は二十年前の大戦で戦った訳ではないので本人的にはそんな認識らしい。


「そうなんですか。」

「そこそこじゃないけどな。 魔法世界じゃ英雄の後継者みたいな扱いだから知らない奴は居ないんじゃないか。 実際ここ数年は高畑先生の活躍も凄いしな。」

今まで横島同様にあまり自身の過去を語らない高畑の過去に少女達は興味深げに聞いていたが、夕映やあやかと千鶴はなんとなく世間一般の評価と違う気がして横島に話を振る。

横島もまた自分の話になると信用度は下がるものの、横島の場合は他人の話になると結構信用されていた。


「お父様って、そんなに凄かったん?」

「詠春さんは正真正銘世界を救った英雄の一人だからなぁ。 凄いとかそんなレベルじゃないな。」

自分のことは誤魔化して棚に上げたがるくせに、他人のことはあっさりと暴露する横島を高畑は少し困ったように見ていた。

まあ横島に悪気はないのだろうし、高畑や詠春の過去は隠せるものではないのでどのみちすぐにバレるのだろうが。


「英雄って……。」

「日本史で分かりやすく言えば坂本龍馬みたいなもんかな? 魔法世界の世界大戦を僅か数人で止めたんだからな。」

そして横島が語る詠春や高畑の過去に少女達は呆気に取られたように高畑を見つめていた。

正直なところ高畑も詠春もそんな凄い人には見えないというのが本音だろう。


「あの、魔法世界というのは個人の力が国家クラスの集団に勝てるものなのですか?」

さやかはどうも知っていたらしいが他は初耳らしく身近な人物の驚愕の過去に驚きを隠せないが、そんな中で遠慮がちに質問したのはやはり夕映だった。


「流石に単純に戦えば勝てないだろうね。 実際詠春さん達は大戦の原因を突き止めることで戦争を止めたんだ。」

勇者のような英雄が現れて世界を救うなんて話は物語ならば星の数ほど存在する。

しかし少女達は現実の話としてそれを聞くと物語とは違った印象を抱く。

素直に憧れや胸が熱くなる気持ちもあったが、同時に言葉に出来ない不安というか胸騒ぎを感じる者も少なからず存在した。


「……おしっこ。」

そのままシリアスな空気が一同を支配するが、それをぶち壊したのは横島の服を引っ張ったタマモが発した一言だった。

どうやら少し前から空気を読んでトイレを我慢していたようだが、我慢できなくなったらしい。

横島はそんなタマモを慌てて抱えると本屋のトイレに連れて行く。


「この話は後にしよう。 あの映画を見ると大筋の流れが分かるからね。」

慌てた様子で本屋の奥に行く横島と何故か一緒に着いていくトイレが近い夕映に少女達はクスクスと笑っていたが、高畑はちょうど話を区切るタイミングと判断したのか話の続きは映画を見てからだと語る。

ちなみに刀子とエヴァはオカルト関連の本を読むのに夢中で話に全く加わっていなかった。
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